南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

エルニーニョと冷水塊

この初冬、ペリリューはずっと水温が下がらなかった。パラオの場合、通常なら外洋で28度、内海なら29度が常温。98年のエルニーニョが起こってからは外洋、内湾ともに1度ずつ上がった。それが今期は外洋真っ只中のペリリューコーナー、エクスプレスでさえ水温が30度以上あった日が何日も続いた。いかに水温が高かったかが分かる。直接的な原因が、太平洋赤道付近で発生しているエルニーニョなのか分からないが、影響を与えていることは間違いないだろう。2月27日現在、そのエルニーニョの勢いは収まっていない。昨年12月は毎日「暑い、アツイ、あつい、あちい」と言いながら潜っていた。

しかし年末年始に季節外れの熱低が来て、1月の半ばから水温が徐々に下がり始めた。2月に入ってからは一気に下がり、現在ペリリューコーナー、エクスプレスで28〜29度。いわゆる「オイシイ」水温というやつになった。下からは冷たい冷水が上がってきて、水深25mを超えると水温は一気に26度まで下がる。更に水深を落とすと24度、22度とずるずると水温が下がる。「寒い、さむい」と言いながら潜っている。この前まで「暑い」と言っていたのに勝手なものだと我ながら思う。

さて、ペリリューではロウニンアジが群れを作る。ロウニンアジは群れを作ること自体が珍しいということは、以前この豪海倶楽部2005年11月号「十三夜の月見が行われる10月」に書いた。

今年の2月はこのロウニンアジの群れが月齢も潮汐も関係なくリーフの棚上に乗っていることがとても多かった。なぜか?最初はその理由が分からなかった。でも、毎日潜っているうちにいくつかの規則性が見えてきた。今年、僕らはまだこのロウニンアジの群れを狙って外した日は無い。分からないのは、その規則性が今年に限ったものなのか、それとも毎年そうなのかということだ。今後継続したデータ収集が必要だと思っている。

この常識的な水温低下は他の魚もこの場所へ呼び寄せる。僕はとうとう撮りたかったサメを撮ることができた。熱帯にいるサメとしては最も危険といわれるブルシャーク(オオメジロザメ)だ。

28mm相当の画角で、3mを超えるブルシャークを1mの距離で撮った。体の割に小さくて前に付いている目。普通のグレーリーフシャークと変わらない小ささのエラなど、ブルシャークの特徴がはっきりと写っている。

この日、このブルはロウニンアジの群れをゆっくり追いかけていた。まるでこれから狩りでも始めようかといった雰囲気だった。普段はかなり警戒心が強く、近くに寄らせてくれないブルシャークであるが、かなり気が立っているようで僕の正面から平気で向かって来た。僕が居ても全く動じていなかった。

ファインダーから目を離すと怖いからファインダーを覗きつづけた。本能的にヤバイと思った瞬間だった。その一瞬後、ブルは体を少しだけ横に逸らし僕の右側へと行った。横を抜ける時、その小さな目は確実に僕を見ていた。餌に為り得るか品定めをしている目だった。 この冷水は、こういった予期しない珍客をまれに連れてきてくれる。前述したが、未だエルニーニョは収束していない。この水温がもうしばらく続くことを祈るばかりだ。


秋野
秋野 大

1970年10月22日生まれ
伊豆大島出身

カメラ好きで写真を撮るのはもっと好き。でもその写真を整理するのは大キライ。「データ」が大好物でいろんなコトをすぐに分析したがる「分析フェチ」。ブダイ以外の魚はだいたいイケルが、とりわけ3cm以下の魚には激しい興奮を示し、外洋性一発系の魚に果てしないロマンを感じるらしい。日本酒より焼酎。肉より魚。果物は嫌い。苦手なのは甘い物。

ミクロネシア・パラオ

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