南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

十三夜の月見が行われる10月

今月は「月」の話から始めよう。「十三夜の月」というのがある。旧暦9月13日、(今年は10月15日)がその日にあたる。満月よりも3日早い13日目の月見を行うこの行事は919年(延喜19)の醍醐天皇の月の宴に始まるとも、宇多法皇がこの月を無双と賞した事から始まるともいわれている。1ヶ月早い「中秋の名月」は誰でも知っているほど有名。これは旧暦8月15日の満月の事。この月見の行事はもともと中国から始まったのだが、こちら「十三夜の月見」は日本固有のものらしい。旧暦8月の十五夜の月に対して「後(のち)の月」とも呼び、また、芋名月に対して豆名月、栗名月ともというのだそうだ。芋より、豆や栗の方が遅いってことなんだなぁ。

・・・と、広辞苑から引っ張ってきた付け焼刃の雑学をチラつかせたところで本題に入ろう。「十三夜」は13日目の月だから満月はあと2日遅い10月17日となる。実はダイバーである僕らにはこっちの満月の方が大事なのだ。満月、大潮の日。ペリリュー島で、いや、パラオで最も難しいポイントの一つと言ってはばからない「ペリリューコーナー」。この日、この場所ではあってはならない光景が広がる。

ロウニンアジの群れだ。通常ロウニンアジは単独でもグレイトなネタなのだが、ここはパラオ。単独くらいじゃそうそう驚かない。でもね、群れになると話は違う。通常群れなんて見られない。単独でも十分OK!なのに、それが群れになったらどう表現すればいい?困ってしまう。そのロウニンの群れが満月の時に浅場に上がってくるのだ。ちなみに向こう4ヶ月くらいの満月の日を書いておくと、今年は11月16日、12月16日、06年は1月14日、2月13日がそうだ。もちろんこの日だけではないが、この日程辺りに群れが浅場に集まりやすいはずだ。まぁ、浅場と言っても25m付近なので大して浅くはないが、通常彼らを見ようと思うと、それこそ40mも50mもワイドレンズもって行かなくちゃならない。ニコノスVがギシギシ言いだすその水深での撮影は正直困難を極める。

ロウニンアジが「群れる」という行為の理由付けはいくつか考えられるが、まず産卵のためと考えるのが一般的なようだ。でも、その為なら同じようにいるブルーコーナーでも群れを作っていいはずなのにそれが無い。今、僕が知っている限りこのロウニンアジが群れる場所は、このペリリューコーナーと、シャークシティーの2ヶ所だけだ。なぜ、この2ポイントだけなのだろう?もう少し考察してみよう。この2つのポイントに共通することは、どちらもそれぞれパラオの一番西と南にあるリーフの張出しとなる。すなわち最西、最南のポイントだということだ。すると、当然そこには外洋性の滅茶苦茶でっかい魚やサメも通過することもあるだろう。通常のポイントならば「敵無し」のロウニンアジでさえも、この場所ではそれらの大型魚の餌となる可能性が高いといえる。この場所では、1m超サイズのロウニンアジでさえ、群れを作らなければ食べられてしまうという訳なのか?もしそうなら、本当に凄いことだ。

ペリリューコーナーを流していき、先端のリーフ水深約25mの棚で止まる。排気のエアーは後ろ斜め30度の角度で流れていく。速いな。潜水時間が30分を経過すると、いよいよ最後のメインイベントだ。リーフから手を離し流れに任せながらも水深は確実に上げる。ここで水深を上げられないと後でダウンカレントの洗礼を受ける羽目になる。ここからが僕らガイドの腕の見せ所。ロウニンが居そうな場所をピンポイントで追っていく。アジ独特のメタリックな体がブルーの水の中から浮かび上がる瞬間、体中の毛穴が逆立つ。「いたっ」。しかし、奴らの場所がダウンのかかっていない確実に安全な場所でないとアプローチできない。この最後の部分は運だ。日によってはカレントの上(浅場)に居てくれる。これなら問題なく皆でアプローチできる。でも、カレントのど真ん中に群れが居る場合は残念ながら上から眺めるだけになってしまう。行けるけど・・・行けるけど・・・でも、きっと行ったら帰ってこられない。そんな流れ。理解できるだろうか?行きたいけど・・・行けないのだ。

パラオに数あるポイントの中でも、この場所は少々勝手が違う。ドリフトダイブ百戦錬磨のパラオのガイドでさえ緊張するポイントなのである。なんと言っても潮が速いときには半端じゃない。ブルーコーナー入るのとは訳が違う。このロウニンの群れを近くで見ようと思ったらこの流れに入らなきゃならない。特に「大潮で流れがある」ときがベターとなり、さらに奴らがいる場所は浮上開始地点近くのダウンカレントでゴーゴー引っ張られるところ。浮上開始近くだから残圧も少ないし、ダウンに捕まったらそれこそ「ひとたまりも無い」。ギリギリのところでのガイドの判断と、その指示に従えるダイバーとしての確実な技術がこの場所へのダイビングの絶対条件となる。

でもね、そんな大変な思いをしてでも会いたい。そこにはそれだけの価値のある光景が広がっているから。

月によってそのサイクルを支配される海。古くから月に特別な思いを馳せてきた人間。人類がこれだけ月にこだわるのは、人もまた海から生まれてきた生き物だからなのかもしれない。月は海を司る。潮を読む=月を読む。DayDreamのマークに月が使われているのにはそんな思いが込められている。月に求めるものは今と昔では違うかもしれないけど、いいじゃない。そう考えるのもなかなかオツでしょ。同じ月に思いを寄せて、そして今の僕らがこの海でいい思いが出来るなら・・・。

P.S.1
この「月ネタ」の“つかみ” は先月使いたかったのですけど、先月はどうしてもイレズミ書きたかったので仕方ないですね。1ヶ月遅くなっちゃったけど、まあいいでしょう。10月はまた来年も来ますしね。

P.S.2
正直このネタは書くのは悩みました。このこと書くとパラオのガイド仲間から怒られそうだったので。だって、パラオのガイドはみんな満月のときにロウニンが浅場へ上がってくるのは知っているし、流れるときにドロップオフの壁に群れが集まるのも知っています。でもそれを公表しちゃうと、実力のない自分の技量を把握していない人からも「行きたい」とリクエストが来てしまって断りにくくなります。それが危ないのですよ。知らなきゃ誰も言い出さないけど、知っていたら行ってみたくなっちゃうのが人情。いままでこのネタの公表がタブーとされていたのはそのためなのですけど、でも豪海はタブーを犯していいところだから書いちゃいました。(笑) なので皆さんもガイドがダメって言ったら素直にその判断に従ってください。ガイドが断るときにはそれなりにきちんとした理由がありますから。間違えても「秋野が書いてたよ」なんて言っちゃダメですよ。お願いしますよ。

P.S.3
誰かに怒られたらこの文削除します。(反省)  合掌。


秋野
秋野 大

1970年10月22日生まれ
伊豆大島出身

カメラ好きで写真を撮るのはもっと好き。でもその写真を整理するのは大キライ。「データ」が大好物でいろんなコトをすぐに分析したがる「分析フェチ」。ブダイ以外の魚はだいたいイケルが、とりわけ3cm以下の魚には激しい興奮を示し、外洋性一発系の魚に果てしないロマンを感じるらしい。日本酒より焼酎。肉より魚。果物は嫌い。苦手なのは甘い物。

ミクロネシア・パラオ

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