ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

第七話 カリビアンブルー(後編)

ほぼ毎晩の様に、街に繰り出してはイタリアンやチャイニーズ、タコスやトルティーヤを食べた。

中でもマリアッチが各テーブルを回りながら演奏をしてくれるレストランは気に入って何度か足を運んだ。ソンブレロを冠った3、4人の楽団ではあるが、それはそれは雰囲気ばっちりで、潮風を感じるオープンテラスで演奏されるラテンのリズムには、ここがカリブであることを決定付けさせるパワーがあった。

ボサノバ以外は、あまりこちらの音楽シーンに明るく無い僕は、当たらずとも遠からず的な「ジプシーキングス」のナンバーをリクエストしていた。ほろ酔い加減の僕には、用が済むととっとと浮上する自分に向けられた戒めの様に聞こえた・・・

「守れぇよぉお、守れぇよぉお、オ・マ・エ、浮上早過ぎっるっぞ!」

最終日、大半の予定していた生物が撮影できて、やっと環境として海を見つめることができた。それまでは、単なる昆虫採集と同じで、自分のコレクションしていない生物の写真を闇雲に追い求めているだけだったので、多分水槽の中でも海でも関係が無かったんじゃないか?って嫌味を言われそうな潜り方だったけど、初めてのカリブ海をカリブ海として見つめる事ができた。

すごい色彩感覚だった。よく「原色が渦巻く」とか言う表現を聞くが、自然の色は必ずしも原色ではない。原色とは、あくまでも人間の想像の中の色であって、言い換えれば「人工の色」に他ならない。微妙に15%程度がパステルで、ドぎつい色では決してない。にしても鮮やかであることには変わりはない。レッドシーで見た色彩も素晴らしいと感じたが、ここではあの感動を数段上回る色に加えて、コンストラクションが存在する。スポンジやヤギなどが密集して、そこへ更にカラフルな生物を呼び寄せる。鼻血が出そうになるほど興奮した。

生物との新たな感動的な出会いを遂げて「鼻血が出そうになるほど」興奮した事はあったが、水中の景観を見てここまでエキサイトした事はない。ん?待てよ、あった(当時から)20年前に初めて潜った沖縄であった。20年前のピュアな感覚を以てして、この感動と分かち合える衝撃とは・・・。

僕は、すっかりカリブに魅せられてしまった。後でスタッフに聞いたのだが、ベストコンディションでもなく、ベストポイントに行った訳でもなく、これが普通の掛け値無しのコズメルブルーだと言う。僕は、この青を知らない。そして、ここで知ってしまったが故、更に追い求めるだろう。カリブが見せた「青の奇跡」は、間違いなく今後の自分の軌跡になる。

帰りの空港で“Departuer”の文字を見た時、次への旅への“salida”に見えた。サリダは「出口」を意味する言葉であるが、同時に出発や始まりを意味する言葉として使われている。新たな青へのsalidaそれがこのコズメルであった。


鉄
鉄 多加志

1965年生まれ
清水出身

生まれ育った環境が、都市部?の港湾地域に近く、マッドな環境には滅法強く、泥地に生息する生物を中心に指標軸が組み立てられている(笑)この業界では、数少ない芸術系の大学出身で写真やビデオによって、生物の同定や生態観察を行う。

通称「視界不良の魔術師」
静岡・三保

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