南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

秘密の島

チューク環礁には、約100個の島がある。

そのうち環礁の内側には60個の有人島や無人島が点在しており、その周りの環礁上には丁度40個の島々が周囲約200キロに亘って飛び石上に並んでいる。環礁上に並んでいる40個の島々は、1島を除き全てが無人島である。北端の北水道に面したピース島(日本名・北島)だけが有人島で、住民500〜600人ほどが生活する周囲2キロ程の小さな島だ。

日本時代の北水道(ノースパス)は、主要な航路の1つに指定され、当時、日本海軍の誇る戦艦大和や戦艦武蔵を始め多くの艦船が出入りした水道であった。そしてその水道に面して横たわる北島は、海軍の重要な基地として当時は多くの兵隊が駐屯していた。チューク環礁内には沢山の日本時代の沈船があり、現在では沈船ダイビングのメッカとして世界中からダイバーが集まってくる。このような環礁内に沈んでいる沈船同様、ここ北水道の沖合いにも沢山の艦船が沈んでいる。しかし、その水深が何千メートルも深いため、今では殆どが忘れ去られようとしている。北島にはこのような戦争の犠牲となった遺族の方達が時々訪れる。先週もそんなご遺族の方をご案内して、久し振りにこの北島に上陸した。

北島には山は無く、海抜1m程の砂地で出来た島である。当然、島には電気も水道も道路もストアーも無い。みんなが自給自足の生活である。島の中は一面のジャングルで、椰子の木、パンの木、等が鬱蒼として茂っている。その合間に、家々が点在しており、そんな家の周りには、タロイモ、タピオカ、バナナ、等の作物が栽培されている。私達が上陸した時は、前日とその当日に死者があり、丁度お葬式の準備などで、島中が何となくそわそわしていた。あちこちの家で、お葬式に備え、パンモチや、タロイモ、バナナなどの現地料理を作っている。それでも私達が訪ねていくと、愛想良く迎えてくれて、休んで行け、食べて行け、と盛んに声を掛けてくれる。南の島の習慣である。そのうち一人の若者が、「オレが島の中を案内するよ!」と、ガイド役を買って出てくれた。若者の案内で、道なき道を辿りながら、1軒・1軒の家を訪ねるようにして、小さな島の中を歩き廻る。お客様は、その原始的な生活振りに驚きと感嘆の声をひっきりなしに上げている。

島の中を歩いていると、あちこちの家から声がかかってくる。他でもない、貝だ。貝を買って欲しい、と言っては、両手に一杯の貝を抱えて私達の前に現れる。ここ北島は、アウトリーフの北端にあり、島の周囲はスッポリと外洋に囲まれている。島の周りには遠浅のさんご礁の海岸が広がっており、沢山の貝が生息している。このような貝は、島の人達にとっては大事な食料の1つでもある。彼らは、魚獲りやタコ獲りの合間に、いろんな貝を採ってくる。食べた後の貝や、美しい貝は、保存しておき、今回のように観光客が来た時に現金に替える事ができる。

その都度買っていてはキリがないので、「桟橋に持ってきて! 向うで一緒に買ってあげるから。。。」と言っては断っていく。島を一回りして、船着場まで戻ってみると、居るわ、居るわ、すごい人数の大人や子供達が両手に貝を抱えたり、袋に詰めたりして大小の貝を我先にと突き出してくる。お客様も、亡き父の慰霊に来たのだから、と、お土産やら自分の記念にと沢山の貝を買っている。それでも、余りにも多い人数と貝の量に圧倒されて、今はもう断るのに必死のていである。貝には目のない私も、沢山の貝の中から好きなものを選んで買ってきた。実はこの島に来る時にはいつも、密かに小銭をたくさん用意して来る事にしている。彼らに10ドル札や20ドル札を出してもお釣などは絶対に無いからだ。1ドル札や小銭をたっぷり用意して、欲しい貝だけを安価で仕入れるのである。

こうして時たま訪れる北島は、伝統的な南の島の生活に触れると同時に、私の貝のコレクションの秘密の場所ともなっている。やはり貝を集めるのが好きな妻も、今度行く時には絶対私も一緒に行く、と、今から張り切っている。

チューク諸島
末永卓幸


末永
末永 卓幸

1949年1月生まれ
長崎県対馬出身

立正大学地理学科卒業後、日本観光専門学校に入学・卒業。在学中は地理教材の収集と趣味を兼ねて日本各地を旅する。1973年、友人と4人でチューク諸島を1ヶ月間旅行する。1978年チューク諸島の自然に魅せられ移住。現地旅行会社を設立。現在に至る。観光、ダイビング、フィッシング、各種取材コーディネート、等。チュークに関しては何でもお任せ!現地法人:『トラックオーシャンサービス』のオーナー。

ミクロネシア・チューク諸島

現地法人
トラックオーシャンサービス

P.O.Box 447 MOEN CHUUK
STATE F.S.MICRONESIA
#96942
Tel/Fax:691-330-3801

www.trukoceanservice.com
Suenaga@mail.fm
© 2003 - 2011 Yusuke Yoshino Photo Office & Yusuke Yoshino. All rights reserved.