南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

椰子の木はどれ!

ミクロネシア・チューク諸島で、観光ガイドをやっている。そしてこの6月が丁度30年目の節目の年となる。人生の半分以上をこの南国の孤島で過してきたわけだ。この間、様々な旅の形があり、いろんな人達をご案内してきた。そんな中でチョット変ったご質問を受けた事がある。

チュークの代表的なホテルは、ブルーラグーンリゾート。モエン島の最南端の岬にある。三方を海に囲まれ、どのお部屋からでもきれいなビーチがすぐ目の前に広がっている。一面の芝生に囲まれたキャンパス内には、よく手入れされた椰子林が広がっており、南国ムードたっぷりのとても落ち着いたホテルだ。

それは最近の出来事である。あるとき、30歳前後のカップルのお客様を迎えた。午前中に到着のフライトだったので、空港からホテルまでの15分間は、格好の島内ドライブとなる。お客様を乗せたバスは、南の島の小さな街や港を通り過ぎ、椰子の木やパンの木、マンゴウの木などが生い茂る山道を抜けると、やがてサウスフィールドビーチの、椰子林が広がるブルーラグーンリゾートの中に入ってゆく。バスを降りて、ホテルフロントまでの数十メートルをお客様と一緒に歩く。女性の様は、椰子林が珍しいのか、それとも、南国の椰子の景色に感激したのか、周辺をキョロキョロと見回しながら私の後についてくる。と、そこでご質問を受けた。

『すみません、あのー、椰子の木って、どれですか? ここにありますか?』

『えっ!』

あまりにも突拍子もない質問と、急な事で、私も一瞬、答に詰まってしまった。その時には、失礼の無いように、周りの椰子林を指差しながら、丁寧に教えてあげた。

同じ様な質問をずっと以前に受けた事がある。その時は、若い男性で、ホテルに2日ほど滞在した後、無人島に出かけた。その無人島でお弁当を食べている時の事だった。その若い男性は、私やツアーリーダーに向って、島の中にいっぱい生えている椰子の木を指差し、

『あの木は何と言う木ですか? 面白い木ですね。』

と言ってきた。私とそのリーダーはとっさに目を合わせた。そして、この若者はきっと冗談を言っているんだ!と2人もマジで考えた。そこで私は、この若者のせっかくの冗談に乗ってやらねば、と思い次々とその質問に答え、面白い説明を加えていった。そのときのリーダーは私の友人で、いつも冗談を言い合っている気心の知れた中だったので、彼も私のジョークにすぐに乗ってきた。そうこうして、チャランポランな説明をしているうちに、私とリーダーはまたしてもハタと目を合わせて唸ってしまった。その若者は、本当にどれが椰子の木かを知らずに質問していたんだ、という思いに至ったのである。そうと、判った時、私達は、ゴメンゴメン、と笑って謝りながら、やっとまともな説明をしたものである。

そしてまた、最近、面白い質問を受けた。若い女性客だ。私と妻のかほる、それにこの女性のお客様との3人で、ホテルのレストランで一緒にお茶を飲んだ。このお客様とはとある時間に過して、すでに気持ちの打ち解けた間柄になっていた。せっかく南の島に来たのだから、椰子を飲まずして帰るのはもったいないと思い、お客様には椰子のジュースをお奨めした。椰子の木からもいだばかりの椰子の実にストローをポンと差し、良く冷えた椰子のジュースが運ばれてきた。お客様は、スーッと一口飲んだ後、

『んー、オイシイ!』

と言って盛んにストローの差してある口の部分を見つめている。そして、もう一口飲んだ後、質問が来た。

『ところで、この椰子の実の中にはどうして(どのようにして)ジュースを入れるんですか?』

『えっ・・・!』

私と妻は笑いながら、一瞬顔を見合わせた。ここは、冗談から入った方が面白そうだ、と、とっさに思った私は、

『そう、いろんな味があるんですよ!』

『今、飲んでいる味は椰子ですけど、パパイヤ味、オレンジ味・・・といろいろあります。良くわかりましたね!』

『この椰子の実にジュースを入れるのは大変なんです!』

などと、冗談でごまかしながら、最後には、如何に椰子のジュースが椰子の実の中にあるのかを丁寧にご説明したものである。

チューク環礁は周囲200キロ以上もある大環礁だ。その中には、大小100あまりの島々がある。そしてその中の80島あまりが無人島である。ある日そんな無人島を巡るべく、カップルのお客様をご案内して海にでた。無人島巡りのボートツアーだ。ボートがホテルの桟橋を離れ、だんだんとモエン島から遠ざかっていく。そのうちに環礁内の幾つかの無人島が見えはじめてきた。私は、ボートが走っている最中でもよく大きな声でお客様にいろいろとご案内することがある。今度はお客様から、エンジン音に負けないくらいの大きな声で質問がきた。遠くに見える無人島を指差しながら、

『あの島もミクロネシアですか?』

如何に冗談が好きな私も、この時ばかりは、唸り続けるエンジン音のもとでは冗談も言えず、

『ハイ、そうです。このあたりはゼーンブ、ミクロネシアです。』

としか答えることが出来なかった。

私達のように、南の島に住んでいるものにとっては、椰子の木や椰子の実は生活の一部であって、誰でもが知っているものである。しかし、椰子の木など全く無い日本では、通常は椰子の木も椰子の実も目にする事は全く無い。いくら情報が溢れているといっても、感心の無い事柄には興味も湧かないだろうし、知識としても残らないのではないだろうか。例えば、椰子の木を他の木に置き換えて考えてみよう。南の島の代表的な樹木にパンの木やマンゴの木があるが、南の島を旅して、このマンゴーの木やパンの木をすぐに判る人は殆どいないだろう。そういう風に考えると、椰子の木や、やしの実を知らなかった人たちの事もわかるような気がする。日本国内でも、日本に普通に生えている、杉の木、ヒノキ、もみの木、ぶなの木など、年配の方達にはわかっている樹木でも、これを見分けられる若い人は少ないのかもしれない。

時代は少しずつ変っていると実感する昨今である。

チューク諸島
末永卓幸


末永
末永 卓幸

1949年1月生まれ
長崎県対馬出身

立正大学地理学科卒業後、日本観光専門学校に入学・卒業。在学中は地理教材の収集と趣味を兼ねて日本各地を旅する。1973年、友人と4人でチューク諸島を1ヶ月間旅行する。1978年チューク諸島の自然に魅せられ移住。現地旅行会社を設立。現在に至る。観光、ダイビング、フィッシング、各種取材コーディネート、等。チュークに関しては何でもお任せ!現地法人:『トラックオーシャンサービス』のオーナー。

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