南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

自給自足と自然保護

チューク州には人が住んでいる島が50島近くある。

その中で州都のモエン島を除くと、殆どの島には道路も電気も水道も無い未開の島々である。そしてそれらの島々では、今でも自給自足を基本とした伝統的な生活が綿々として営まれている。グアム島から丁度1000キロ、飛行機でわずか1時間40分の距離にあるチューク諸島であるが、その未開地故に、海・陸共に素晴らしい自然に恵まれている。その要因として、インフラ整備の立ち遅れに伴う自給自足社会の存在が大きく影響しているように思う。

まず、殆どの島々には道路が無い。

道路が無いと言う事は、車が無く、廃車や廃棄ガス、ガソリンやオイルなども無く、自然環境の破壊や汚染を防ぐ大きな力となっている。どの島に行っても海岸から山まで緑が豊富で騒音も無く、海は澄み切っていて、珊瑚や魚も豊富である。島の中を歩いていても聞こえてくるのは、波の音や小鳥のさえずりくらいのもので、その静けさには心を洗われる感がある。

ガスも電気も無い。炊事はすべて屋外で行なわれ、燃料は薪(たきぎ)である。ヤカン一杯のお湯でも薪が使われる。燃料としては、家の周辺に薪となる樹木がいくらでもあるし、ヤシの枯れ葉やヤシ殻なども大切な燃料である。これらの燃料からはガスも汚染物質も存在しないし、燃えた灰は土に還り肥料となる。電気がなければ冷蔵庫も電化製品も無い。ソフトドリンクなどの冷たい飲み物が無くても、美味しいヤシは無尽蔵にある。スフトドリンクなどの容器はゴミとなって自然景観をそこね、自然を破壊するが、ヤシの殻は燃料となったり、腐っても土に還る。

伝統的な食生活。主な食べ物は、パンの実、タロイモ、ヤムイモ、タピオカ、バナナ、サツマイモ、そして、マンゴーなどの果物。すべてこれらの食べ物は植物で、緑の島の景観や埴生にも一役買っている。そしてその調理方法においては、ガスや電気、科学調味料等とは全く無縁のもので、全てが伝統的な方法で行なわれている。

最も代表的な食べ物であるパンの実の調理について見てみよう。

パンの木に登ってパンの実を落とす。高いところの実は、専用の長い棒を使って落とす。ヤシの葉っぱで編んだバスケットに入れて家まで運ぶ。宝貝やヤシ殻で作った道具でパンの実の皮を剥く。剥いた皮は畑にまいたり、ブタのエサになったりする。薪を燃料にして茹でる。竈(かまど)は無く、大きな石を置いて代用としている。茹で上がったパンの実を搗いて餅にする。臼や杵はチューク地方の伝統的な道具が使われる。搗き上がった餅は、パンの木の葉っぱに包んで保存する。サラなどの食器は全く使わない。食べるときは、包んだ葉っぱを広げてそのまま手で食べる。食器もナイフもフォークも使わない。

チューク諸島の人達の食べ物は、殆どがこのような過程をもってつくられ、食べられている。そしてここでは食べ物だけでなく、その生活道具や材料に至るまで自給自足の中で営まれている。この間には、公害になったり、ゴミになったりするものは全く見当たらない。

チューク諸島の自然がいつまでも守られている裏には、このような社会の伝統的な暮らし振りや、精神文化が大きな力となっている事も見逃せない事実である。インフラが整備され便利になっていくと共に、貴重な自然も少しずつ破壊されてゆく。自然と人間の共存共栄の道を探る事は、文明社会だけでなく、このような未開の地域にとっても早急に検討されるべきことだとつくづく痛感する。

チューク諸島
末永卓幸


末永
末永 卓幸

1949年1月生まれ
長崎県対馬出身

立正大学地理学科卒業後、日本観光専門学校に入学・卒業。在学中は地理教材の収集と趣味を兼ねて日本各地を旅する。1973年、友人と4人でチューク諸島を1ヶ月間旅行する。1978年チューク諸島の自然に魅せられ移住。現地旅行会社を設立。現在に至る。観光、ダイビング、フィッシング、各種取材コーディネート、等。チュークに関しては何でもお任せ!現地法人:『トラックオーシャンサービス』のオーナー。

ミクロネシア・チューク諸島

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