八ック謎ナゾ生命体 豪海倶楽部  



島にいると、本屋が2軒しかなく、そのどちらも売り場のスペース半分は文房具に裂き、本の売り場の大半に雑誌とマンガが置かれています。店内はいつもガラガラなので、いったん入ると、何か買わないと帰れない気分。ついつい足が遠のきます。都内にいるとコンビニの前を通ったりキオスクに立ち寄っただけで、どんな本が話題になっているのか、いやでも目に入るでしょう。ちょっと気になった本は、少し読んでみることができるでしょう。島では、それができません。本を買うのは、もっぱらネットで。買ったら絶対読みきれるだろうと、確信を持てるものでないと買う気になれません。立ち読みができないと、かえって本は買わなくなるものですね。おかげで、島に来てからは、ずいぶん読書量が減りました。

その反動もあってか、実家に帰った時には、かなりまとめて本を読みます。私の父も、暇さえあれば本を読んでいる人で、読み散らかした本が部屋の中で山になっています。私が暇そうにしていると「これ読んでみたら?」と渡してくれるので、それをそのまま読み散らかしてくるのです。気に入ると、同じ著者の本を何冊が続けて読みます。

昨年の12月に少し実家へ帰らせてもらったのですが、その時には伊坂幸太郎の本を貸してくれました。私が八丈へ来た2000年にデビューし、それ以来いろいろと話題になってきた人気作家のようですが、私は全く知りませんでした。まだそれほど読んだわけではないのですが、今までのところ「オーデュボンの祈り」が一番のお気に入りです。題名に「祈り」と付いているのをみて、最初は暗い、悲劇的なストーリーを想像していたのですが、最初から突拍子もない展開で、どういうつもりで読み進めていったら良いのか戸惑ってしまう面白さがありました。

主な場面は、私が現在住んでいるような、小さな島です。

ところが、ただの島ではありません。日本という国が鎖国をやめることを決めた時に、勝手に独自で鎖国することを決めた小さな島なのです。島の中でただ1人だけ、本土と往来することができる人物がいるのですが、それ以外の交流は全くなし。そこに、桜と呼ばれるスマートな男性が登場します。彼は島の中でただ1人だけ、人殺しをしても良い人間ということになっています。桜は、相手が年寄りだろうが子供だろうが、躊躇することなく拳銃で撃ち殺してしまうのですが、島の人は誰もが「それは殺されるような悪い事をしたからだろう」と納得するのです。

主人公も、読んでいる私も、初めて桜に出会った時には「なんじゃそりゃ!?」と驚きます。それが、最後まで読み進めていくうちに、主人公も、読んでいる私も、いつの間にか島の人たちと同じように桜の存在を受け入れていってしまうのです。

この原稿は、締め切りを少し過ぎた大寒の日に書いています。

寒気が南下し、八丈の南側を通過中の前線のせいで、冷たい北風が台風並みに吹いています。今年は早くから、冷え込む日が多いような気がします。それでも数日前には、近所で寒緋桜の花が見頃になりました。

この桜の花を眺めながら、桜という名の男のことを思い浮かべると、何だか不思議な気分になります。「桜の花」かれ連想される、気高さか、潔さとか、諸々の思いが、この男に対する印象と重なる部分があるからでしょうか。

寒緋桜は、沖縄や奄美大島に多く伊豆でも見られるそうですが、八丈では大島桜ばかりで他の桜はさっぱり見かけません。寒緋桜は、近所の家の庭に植わっている1本だけでしょうか?

今度、暖かい日がきたら、桜の花の下で読書をしてみませんか?


水谷
水谷 知世

昭和40年代生まれ
兵庫県出身

一見、負けず嫌いで男勝りというイメージだが、実は繊細な女性らしい一面を持つ、頭の回転はレグルス一番!!の頼もしい存在である。(レグルス親方・談)

伊豆諸島・八丈島

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