ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

ウミウシの目

八丈に来て10年。

この4月に、私にとっての水温最低記録が更新されました。

ナズマドにて。水温、10℃。今までの最低は13℃でしたので、一気に3℃も更新です。

「こんなの、初めてだ〜!!」

と叫んだら、別チームをガイドしていた親方が

「俺も初めてだ〜!!」

その後、次々にエキジットしてくる島内のガイドさんたちの、もう笑うしかないでしょって感じで、「この海、絶対どっかおかしい!!」と、歓声にも似た叫び声がこだましていました。

「あと少しで、一桁達成だったのに〜っ!!」なんて。

元々八丈島の周囲が水温の低い海だということであれば、ダイバーも水中の生き物たちも驚かないのですが、皆が初体験の最低記録。海の中は、かなり悲惨な状態になりました。

まず、サンゴの白化。

近年の海水温の上昇でサンゴが白化することは周知の通りですが、八丈では冷水塊でサンゴが白化したんですよ。沖縄のサンゴと違って、こちらは全然話題にはなりませんでしたけど。でも、確かに、10℃でサンゴが生きていられるわけがないでしょ。特に枝状のサンゴが弱いらしく、ずいぶんと白くなっているのが目立ちました。

そして、魚たち。

バタバタ死んでましたよ。

昔、本屋で「死んだ魚を見ないわけ」というタイトルの本を見かけたことがあるのですが、この頃の八丈と言ったら「死んだ魚しか見つからない」状態で、水底にごろごろ死骸が転がってるわ、生きて泳いでる魚も時々腹が上向いて痙攣してるわ、波打ち際にも打ち寄せられてるわ。ダイバーもビックリですが、釣り人もビックリしてました。釣りする気分、失せますよね? 釣ってる目の前で、死骸がいっぱい浮かんでたら。有害物質が流れてるわけじゃないとしても。

「このままでは八丈の海の生き物が絶滅してしまう!!」

と思ってしまうほど、死骸の山でした。ついでに、私たちも気分は死にそうでした。

しかし!!

「冷水塊こそ、我々のチャンス!!」とばかりに、種数と個体数を激増させた生き物たちがいました。まるで「不況こそチャンス!!」とばかりに、ぐんぐん業績を伸ばして事業を拡大している実業家のよう。その実業家の名は…ウミウシでした。八丈初記録か?と思われる温帯種のウミウシが続出。八丈で2〜3日滞在して毎日ウミウシ探しをすれば、軽く100種近いウミウシを見つけることができるほど、多種・大量のウミウシが現れました。ゲストのリクエストがウミウシだと「はい、喜んで!」と言える状態でした。

そして、人一倍寒がりのくせに「これは絶好のタイミング!!」と喜んだ人が、私の近くに1名いました。

わかる人には、おわかりの通り、親方です。

元々親方は、ウミウシの第一人者でも、人一倍ウミウシが好きなわけでもありません。しかし、水中の生き物なら何でもござれの親方は、ウミウシの写真も相当な種数を撮りためているのです。それが功を奏したのか、近々、ウミウシの本を出版するに至りました。同様にして、甲殻類の第一人者でも、人一倍エビ・カニ好きというわけでもないのに、過去に「エビ・カニ ガイドブック」を出しました。種の分類に詳しいわけではないので、奥野さんが監修についてくださいました。今度のウミウシの本にも、ウミウシ界の第一人者(!)が監修してくださる予定です。まさに鬼に金棒! 撮りなおしたい写真、増やしたい種数、ウミウシを撮りたい親方にとって、冷水塊は自然がくれたプレゼント?? 親方以外の生き物にとっては大迷惑でしたけど。

ちょっと宣伝しておきますと、この本、既出のウミウシの本とは一味違います。ただ写真を載せて、解説して、というのでは面白くないので、親方のもう1つの得意技を駆使しました。

もう1つの得意技とは…お絵描き。

掲載する全てのウミウシ、だいたい450種くらい(予定)を、全て図解しています。昼間はせっせと海へ行って写真を撮り、夜はパソコンでお絵描き、の日が続いています。

そんなわけで、私もウミウシの写真ばっかり撮る日が続きました。

ウミウシしか見つからないし、写真は必要とされてるし、仕方ないですよね。

でも私も人一倍ウミウシが好き、というわけではありません。バックナンバーを振り返ってみても、連載中ウミウシを載せたのは2〜3回? そんな中で、多少なりとも私を引き付けてくれたのは、ミノのあるウミウシでした。そのせいか、見つかるのもミノのあるものばかり。特に、触角に下に「目」があると、ちょっとワクワクします。

知ってました? 黒い点のような「目」があるって。

貝を持つウミウシや、ミドリガイの仲間にもあるますけど、ミノの目が良いんですよ。理由は説明できません。

ここ数回のダイビングだけでも、こんなに撮っちゃいました。滅多にないことなので、今回は思いっきりたくさん出しちゃおうっと。

「ウミウシの目」特集!!

そうそう、最後に付け加えておかなくっちゃ。

水温10℃だった八丈は、4月16日以降に接近してきた黒潮のおかげで、一気に23℃まで上がりました。魚の死骸も見られなくなりました。代わりに幼魚の姿が目立ってきています。海の生命力って凄い!


水谷
水谷 知世

昭和40年代生まれ
兵庫県出身

一見、負けず嫌いで男勝りというイメージだが、実は繊細な女性らしい一面を持つ、頭の回転はレグルス一番!!の頼もしい存在である。(レグルス親方・談)

伊豆諸島・八丈島

レグルスダイビング

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