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アンガウル島探検記・陸上編

さて、アンガウル島探検記も3回目の最終回である。いやー、原稿を書こうと思ってPCの前に座ったのはいいが、さすがに3ヶ月も経つと記憶のディテールが怪しくなってくる。こういう場合、正確性を欠いてないところから紐解いていくにかぎる。そして書き出しの“きっかけ”が大事なのだ。そう、きっかけ。そいつが今月のペンの走りを左右すると言っても過言ではないのである。さて、しかしいったいどこから始めようか。思えば今回のアンガウルツアーはよく雨に見舞われたツアーであった。別に寒くはなかったが、アンガウル滞在中僕らの予定はこの雨に大いに翻弄されるのであった。

もともと、アンガウルの島内観光は初日の午後に行く予定だった。ダイビングから宿に戻り、出かける準備をしていたら雨足が強くなってきた。もともと濡れているのだし決行か延期か迷った。でも皆ダイビングで疲れているし体も冷えている。体調でも崩したらそれこそ目も当てられない。今日はそのまま休もうということになり。ビールをプシュッとやることにした。ビールをプシュッとやりたいから翌日に延期にした訳ではない、延期になったからビールをプシュッとなのだ。どうでもいいことなのだが、大事なことだ。誤解なきようお願いしたい。そうして、初日の夜は倉田先生を囲んで愉快に過ぎていくのであった。

翌日8時、小雨がぱらついていたが許容範囲。いよいよ陸上ツアーの開始である。アンガウル島には30ヶ所以上の見学スポットがあり、倉田先生が学術顧問をしているOWSが主体となってその管理をしている。僕らのルートは東側の1番から順に北上していくコースだ。戦跡や島の自然遺産を見学、観察しながら進むこのツアーは同行してくれるガイドの情報量が命だ。特に興味深かったのは旧日本統治時代の灯台跡だった。現在はもちろん機能していないが灯台管理棟の屋上までかろうじて登ることができる。建物の横壁には艦砲射撃を受けた大きな穴が開いていて、残っているセメントの壁には無数の機銃の跡が今もしっかりと残っていた。いたるところで錆びた鉄筋がむき出しになっている。屋上まで登るにあたって強度的な心配もあったが、えいやっと登ってみた。とりあえず大丈夫だった。灯台の本体は当時の艦砲射撃によって倒されて、今は管理棟の脇に横たわっていた。なんとも言えない苦味が口の中に広がる。その他にも実際に先生が使っていたのと同じタイプの速射砲や、戦没者慰霊碑も訪ねた。

こういう生々しい戦争遺跡というのは時に、どんな人の言葉よりも戦争の悲惨さを物語ってくれる。さらに倉田先生の説明が加わることにより、より一層現実味をもった「歴史」として僕らの心に刺さってきた。倉田先生の話はリアリティーがあって戦争の恐ろしさや、悲惨さを僕らに伝えてくれるが、それだけではない。「この人の墓は僕たちが作ったんですよ。この人なんか墓を作ってもらえたからまだ幸せですよ」と、お線香を添えながら軽く言ってのけ、雰囲気を軽くしてくれたりする。よもすればとても重いはずの言葉を、いとも簡単に言ってのける。その「時」を生きてきた人だからできることなのだろうと思った。

もしチャンスがあるなら、是非これらの戦争遺跡を皆自分で見られたらいい。その時に何を感じ、何を思うかは人それぞれかもしれないが、きっとそこから何かを感じることができるはずだ。普段何気なく“のほほん”と暮らしている僕らに、とても厳しく悲惨で残酷な重い内容の戦争を、過去の歴史としてだけでなく、その当時の現実として見せ、教え、伝えてくれた倉田先生。そこには先生のユーモアあふれる人柄がなければ、ただの戦争遺跡めぐりになってしまっていたかもしれない。興味深く見学し、そしてそこから何かを学ぼうとする気持ちにはなれなかったかもしれない。ここに改めて倉田先生に感謝をしたい。

さて、少々重い話になってしまったので、別の話も書こう。アンガウルは戦争遺跡だけの島ではない。その自然と、そこに生きる生物が非常に面白い。たった12kmしか離れていないのにペリリュー島とアンガウル島は生物層がかなり違うのだそうだ。オオトカゲ、緑の綺麗な羽を持つナンヨウショウビンなど観察しがいのある生き物が多い。ペリリューには生息していないカニクイザル(通称アンガウルモンキー)は有名で、コロールでもペットとして飼っているひとも多い。そんな生物を壁や木の上で見つけながら道を進んだ。倉田センセはその間もずっとその生き物たちの説明をしてくれる。75を過ぎている年齢を全く感じさせないセンセのエネルギーには脱帽である。そんなこんなで最終目的地のサンタマリア像のところまでもう一息のところまできたあたりから、また雨がぱらついてきた。大急ぎで像のところまでたどり着く。海からは見ていたが実物はもちろん初めて。白亜のマリアは静かな微笑をたたえながら大海を見ていた。ゆっくりしたかったが、感動している暇もなく雨足はどんどん強くなっていく、5分もしないうちに土砂降りの大雨となった。

車で退散、と言ってもトラックだから皆でズブ濡れになりながら戻ってきた。それでも皆なぜか笑っていた。午後の出港時間、奇跡とも思えるように天気が好転した。誰の顔も満足げだった。驚き、発見、そして見学と観察。アンガウルという島には、人を諭し癒す力があるのかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。ボートに乗っているメンバーの顔を見ながら、ふとそんなことを思った。ボートは青空の下を心地よいスピードで走りながらアンガウル島から離れていった。


秋野
秋野 大

1970年10月22日生まれ
伊豆大島出身

カメラ好きで写真を撮るのはもっと好き。でもその写真を整理するのは大キライ。「データ」が大好物でいろんなコトをすぐに分析したがる「分析フェチ」。ブダイ以外の魚はだいたいイケルが、とりわけ3cm以下の魚には激しい興奮を示し、外洋性一発系の魚に果てしないロマンを感じるらしい。日本酒より焼酎。肉より魚。果物は嫌い。苦手なのは甘い物。

ミクロネシア・パラオ

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