南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

アンガウル島探検記・ダイビング編

先月の原稿を書き始めたら余計なことばかりだらだらと書いてしまった。ダラ文2500字くらい書いた段階でとても1回では書き終わらないことに気がついた。もう少し早く気がつけよオレ。と思いながらも、無理してもしなくても大した終わりかたをしないのだから書きたいだけ書くことに決めた。で、アンガウル島探検記2回目はダイビングのこと。今月もペースを崩さずだらだらといってみようと思っている。だから今月も皆さんの人生にとって役立つことはあまり書いてないので暇と元気のある人は読んでください。

いつの間にか霧雨が降ってきたアンガウル島の西港に僕らが到着する頃、先発隊としてアンガウル入りしていたボボイたちがマリア像の岬から港に車で降りてきた。ダイビング器材以外の荷物を桟橋の車に積み込む。その手際よい動きからみんながダイビングへ期待しているのが伝わってくる。もちろん僕だってとても楽しみだけど、こういうのってちょっとプレッシャーなのだ。わざとダラケて気持ちを集中する。荷物の移動や器材のセットアップで30分くらい桟橋に居たあと出港。気合でちょっとだけ鼻の穴が膨らんでしまう。

入港する前、北の岬とサンタマリアの岬はかなり高い白波が立っていた。「ふーん、結局そういう流れか・・・」ペリリューからずっと水面を見てきたから今日のアンガウル島周辺の流れは西から東に流れているのは分かっていた。岬のところの白波の立ち方や今日の流れと風の向きだと北から東沿岸を潜るのは無理っぽい。南はだらっとしたスロープで魚が溜まる根がないからリサーチしても楽しいかどうか疑問。消去法でいくと、おのずと西側沿岸を狙うことになる。2日間で潜った本数は4本。過去に経験のあるサカウエジロー氏と地図の赤いラインのところをリサーチポイントに決めた。

1本目は西の港から出て南西側に張り出しているリーフの先端を潜ってみることにした。地図の青い丸が西港で、その西港のすぐ左下のポイントを選ぶ。当然ポイント名なんて無い、と思う。誰も知らないし教えてくれないから分からない。まあいいやっ、えいやっ、とエントリー。最初にびっくりしたのがその透明度。天気が悪いのに楽ショーで40mは見える。これで天気が良かったらもっと見えるのだろう。後でセンセイに聞いた話によると、アンガウルは島が最初にできて、その後で島の裾にサンゴ礁ができてきた「裾礁」の島なのでバリアリーフが無い。島から流れ出た水が淀む場所がないため水が濁らないのだろうと教えてくれた。ふむふむ、なるほどそーなのか。

このポイント、アカモンガラがすごいじゃないか。これだけの量を一度に見たことがない。まあ、他にもこの魚がいるポイントは山ほどあるが、その数が半端じゃない。そのくらいアカモンガラ、アカモンガラ、アカモンガラ、なのだ。地形は10mくらいの浅いリーフエッジから急激なスロープともドロップオフともつかない壁が水深60mほどまで落ち込み、そこから緩いスロープに変わる。リーフの表面はツルッとしていてソフトコーラルもハードコーラルもほとんど付いていない。(ここはかなり速く流れるんだ・・・)それはこのリーフの景観から容易に想像できた。コーラル類が“付いてない”のではない、“付けない”場所なのだ。その壁を守るように何万、いや、何十万というアカモンガラがリーフから一定の距離を保って泳いでいる。僕らはかなり長い距離を流しながら移動してみたが、そのあいだずっと途切れることなくアカモンガラの壁は続いていた。

水中を移動しながら考えた。西港から北西側に位置するポイント、地図の左上の赤線のところ「サンタマリア」リーフに、半赤海流の分流が西から入ってくる。その流れがサンタマリアに当たり、さらにそこで西港に沿って南西側に反流を起こす。それがこのアカモンガラ・リーフに当たるのだろう。アンガウル西側の地形と流れの特徴がこの“アカモンガラバリア”を作らせるのだ。我ながら良くできたその仮説にウキウキ喜びながら、この立派なアカモンガラ達を見る。うーん、唸ってしまう。パラオで9年ガイドしていて、アカモンガラの群れに唸らされたのは初めてだ。

うーん、うーんと唸っているうちに、1mもあるツムブリの大群が僕らの排気のエアーに突っ込んでくる。排気のエアーを手で細かく崩してやるとツムブリの群れはさらに興味を持って、あっという間に僕らを包んでしまう。否が応で期待が高まる。ふとリーフの方をみるとツバメウオの群れが僕らに寄ってくる。泳ぎもキビキビしていてツバメウオっぽくないな。ここにいるとそうなってしまうのかもしれない。

気になったことはサメが多くないこと。いや、多くないんじゃない、いないんだ。パラオの他島のポイントでは、これだけのアカモンガラが集まる場所には必ずといっていいほど複数のオグロメジロザメがグルグルしている。でも、ここでは全く目にしなかった。たまたま今日だけか?下に行けばいるのかと思って水深を落としてみるがやはり見当たらない。ここでまたまたセンセイの見解だが、きっとリーフの外が深く落ちすぎているのだろうということだったが、僕はそれだけではないような気がした。でも、理由は分からなかった。

お昼ごはんを食べて2本目はいよいよアンガウルで一番有名なポイント「サンタマリア」に行く。ポイント名の由来は簡単でそのポイント前の岬にマリア像が建っているからだ。純白のマリア像に見つめられながらセッセとスキンダイビングでポイントを見ていく。ツルッとしたリーフは「アカモンガラ・リーフ」と似ているが、こちらはウメイロモドキや、ニセタカサゴといったタカサゴ系の魚も多い。流れは南に向かって流れているようだが、リーフの先端から少し北は流れが島に沿って北に上がっている。やはりここで大きな流れが二分されるのだろう。

僕らは流れに乗って南にドリフトすることにした。エントリー場所はマリア像の右目の前辺り。ちょうど北に向かう流れとの分かれ目だ。水は流れているが弱くて「気持ちいい」というほどのものではない。でもまあ、あれこれリサーチしていくのならこのくらいが丁度いいか。入るとその透明度にふたたび感動する。パラオは他のミクロネシアの島に比べると透明度は良いほうではない。でもそのセオリーはこの島には当てはまらないみたいだ。半赤道海流アンガウル島万歳。

リーフ沿いに流していくと、ウメイロモドキが目の前を斜めに泳いで行き水中をにぎやかす。定番の大サイズのツムブリもロケットのように突っ込んでくる。わくわくした。サンタマリアにはオグロメジロザメがいた。数固体だったので、きっと数は多くないのだろう。でもサメが居るということは期待が持てるぞ。そんなことを考えながら中層や表層に期待いっぱいで目線を送ったが、特別待遇の一発大物は現れなかった。ま、人生とはそんなものである。

しかし、手ぶらでは帰ってこないのが僕らである。エントリーしてから30分を経過しようかとしていたとき、水深40m付近で見たことのないモンガラカワハギが集まっている。寄ってみると、どうやらアミモンガラが営巣活動をしているようだった。普通に図鑑に載っている色とは違う、老成しきった個体か。婚姻色を出していて、頭と胸鰭の付け根が黒くなっている。写真があるのでここに載せるが、コンパクトデジカメで撮ったものだから少々見苦しいがお許しいただきたい。とにかく僕らはその初めて見る、ネタ的にも色彩的にもあまり華やかでないがめずらしい、アミモンガラの老成らしき魚たちの営巣活動目撃で沸いた。だが、水深が水深なだけに長居はできない。「あっ」という間に腕のアラジンが怒りはじめた。後ろ髪を引かれながら浅場に戻って浮上体制に入った。

普段は沖合中層にいるのであろうことは泳力のありそうな背鰭、尻鰭から想像できる。僕らダイバーが目にする機会はほとんど無いようで、僕も過去に見た記憶が無い。最近記憶のネジが少々緩いのであやしいが、たぶん、きっと、おそらく初めてだろうと思う。営巣するのに都合の良い場所というのがあるようで、その営巣しているエリアだけ十数メートルおきに巣があった。ざっと目視で50尾以上が巣作りをしていたと思う。♂だけが巣作りをするのか分からないが、顔が黒くなっていない固体が中層に泳いでいたことを思うと、きっとあれが♀なのだろう。もしかすると、ここはアミモンガラの集団営巣地区で、少子化対策の特別行政で子孫繁栄推進地区なのかもしれない。それはもしかすると普段あまり見ない魚の営巣拠点を見つけてしまったのかもしれない。それはそれはもしかすると大発見なのかもしれない。それはそれはもしかするともしかすると、僕らはノーベル自然科学賞とかもらっちゃうかもしれない。などとおバカな僕らはその夜、その大発見(ほんとかな?)の魚を肴にビールで大いに盛り上がったのであった。

アンガウル島探検記「陸上編」につづく


秋野
秋野 大

1970年10月22日生まれ
伊豆大島出身

カメラ好きで写真を撮るのはもっと好き。でもその写真を整理するのは大キライ。「データ」が大好物でいろんなコトをすぐに分析したがる「分析フェチ」。ブダイ以外の魚はだいたいイケルが、とりわけ3cm以下の魚には激しい興奮を示し、外洋性一発系の魚に果てしないロマンを感じるらしい。日本酒より焼酎。肉より魚。果物は嫌い。苦手なのは甘い物。

ミクロネシア・パラオ

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