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アンガウル島探検記

4月19日と20日の2日間でパラオにあるアンガウル島に1泊のオーバーナイトツアーに行ってきた。アンガウルはパラオ諸島の一番南の島で、僕のいるペリリューから南に12km行った大洋島だ。パラオを取り囲むバリアリーフのさらに南側に位置する場所にあり、島民200人程度でとてものどかな雰囲気がある。ちょっとカジッた知識をひけらかそう。アンガウルは単独の孤立礁で、もともと大昔に環礁だったものが隆起して島となり、その後島の回りにサンゴ礁ができて裾礁(きょしょう)となり現在の形になったそうだ。

パラオで最初に出来た島はアンガウルで、これは近代、学術的な裏づけによって証明されている。しかし、パラオに昔から伝わる秘話の中に「神様はパラオをアンガウルから作り始めた」と記されている一文があるそうだ。学術的な根拠のないこの昔話にパラオ諸島形成の歴史が現在の科学的見解と一致して正しく書かれていることには驚く。まったく不思議なこともあるものだ。

ついでだからもう少しサンゴ礁について書いておこう。パラオの本島である、バベルダオブ島の東海岸(マルキョク州辺りまで)は裾礁、南、西海岸は堡礁(ほしょう)、カヤンゲルは環礁で、メリルやトビのあるソンソロールは卓礁(たくしょう)と呼ぶのだそうだ。後で詳しく書くが、今回ご一緒していただいた倉田先生は「海に従事する仕事をしているのだから、正しい知識を持っていないといけない。何でもかんでも環礁と呼ぶのは恥ずかしいですよ」と、この事を教えてくれた。

今回の目的はアンガウル島周辺でのダイビングと島の散策。こなれて言ってしまえばリサーチだ。実は僕はアンガウル島に上陸するのは初めて。初めての場所というのは何かと勝手がわからない。こういう時は誰か案内のできる人はいないか探すのが手っ取り早い。たまたま先日まで僕のところに潜りに来ていた後輩から倉田先生のことをお聞きした。その後輩の根回しでトントン拍子にセンセイが同行してくれることが決まった。

倉田洋二先生は小笠原海洋センターの所長を務めた後、パラオに在住している熱帯生物研究者である。その昔、このアンガウルで自軍1500名の少人数で2万のアメリカ兵を迎え撃ったという地獄のような経験を持つ人だ。戦争をよく知らない僕らが、生きた戦争の話を聞けるチャンスなんて滅多に無い。現在はNPOであるOWSという自然環境保全団体の副会長も務めている。このOWSという団体はアンガウル島に州立自然公園プロジェクトを立ち上げたことでパラオでは有名だ。センセイはこのプロジェクトの中核となっている。今回の勉強ツアーの成功は、この倉田先生と、OWSの協力によるところが大きかった。さらに驚いたのは、倉田先生と僕とはほとんど面識が無いのだが、以前の仕事の関係で僕のお袋をよく知っているというではないか。うーん、まったく世の中というのは狭いものだ。

こういう凄い人が同行することになってくると、一緒に行くメンバーも段々とそれに見合う輩が集まってくる。OWSネイチャーガイドでセンセイのアシスタントの上杉君、自然観察のスペシャリストだ。そしてパラオ・サザンマリンダイバースのアシスタントマネージャーで魚類学者で最近もっぱら僕の魚の情報源である坂上治郎氏。ジローさんはそのまま読むとサカガミジローに見えるが、実はサカウエジローなのだ。そんなことはアンガウルには全く関係ないのだが、本人も普段から冗談でよくその事を言っているし面白いので書いておこう。そんなそうそうたるメンバーが続々と名乗りを上げ、今回のツアーに参加することが決まった。初めは僕らだけで適当にヘラヘラと行くつもりでいたのに、なんだかとっても真面目で本格的なツアーになってきた。

そんなこんなで、今回は陸上での案内役を倉田先生にお願いすることになった。でも実を言うとこの時は、倉田先生がそんなに凄い人だとは知らずにいた。無知というのは全く恐ろしいもので、今回のツアー中、僕はずっと「センセー、これは?」、「センセー、アレは?」、「センセー、それは?」といって様々なくだらない質問を山のようにしてしまった。しかしセンセイは大物である。何一つ顔色を変えずに、真面目に分かりやすくその質問の答えを確実に返してくれた。この場を借りてお礼と共に非礼を詫びたい。

スペシャルゲストの3人にウチのスタッフとお客さん合わせて総勢13人。ちょっとした修学旅行みたいだ。修学旅行みたいでも行動は皆バラバラで、センセイと上杉君は自分たちで適当にボートを仕立てて、コロールから直接アンガウル入りすることになっている。集合場所は決まっていない。「適当に島の中にいるよ」とだけ電話でおっしゃってくれたセンセイはやはり大物だと思う。そしてデイドリーム・コロールのスタッフのボボイとマキは前日の定期船ですでにアンガウル入りしていた。「岬の辺りにいるから、ボートが来れば見えるよ。そしたら港に来るからシンパイナーイ」と、これまたボボイもテキトォな答えをしてくれる。皆バラバラである。(まぁ、たかが南北4kmほどの島だから探せばどこかにいるよ。島から出ない限りなんとかなるだろ)と、先に行くほうも適当なら探すこちらも適当である。このあたりを細かく計画を立てても計画通りに行かないのが南国パラオ式。だったら最初から時間まできっちり決めた計画なんて立てないのがいい。予定は骨組だけでシンプルにしよう。当日僕のバックの中に入っていた行程表をここに紹介しよう。「初日は大体昼前にアンガウルに到着して、お昼をはさんで午前と、午後にダイビング。そのあとはテキトーに遊ぶ。翌日は午前中センセイと一緒に島内散策、午後はダイビングして帰る」と、これだけ。こんなんで十分なのだ。

13人中4人は勝手に島に上陸していてくれるのだから楽なものだ。後は僕ら残りのスタッフ6人とお客さんの2人、そしてサカガミジローならぬサカウエジロー氏の9名が現地に行けばいいだけだ。スピードボートだから20分もあればアンガウルに着くだろう。こっちのメンバーは皆ペリリュー出発メンバーだから足並みも揃えやすい・・・と思ったら忘れ物をして取りに帰るやつ、出発直前で腹が痛いといってトイレからでてこないやつ、と“計画通りに進まない”予定どおりだ。

そんな“すったもんだ”があってボートはいよいよペリリュー島南にあるキャンベックから出港した。行き先はもちろん、南方向12kmにあるアンガウル島だ。この日は思ったより風が強くてボートが揺れたが、それでも皆気持ちが盛り上がっているからヘラヘラ笑いながらの20分間だった。ボートのシートの上でジローさんとダイビングと魚の話で盛り上がる。「やっぱパラオにもインドアカタチいたんだねー」というジロー氏。とっても見たいが簡単には教えてくれそうもない。僕の秘蔵の芋焼酎1本で場所を教えてくれることの交渉を取り付ける。「そういえばペリリューコーナーのロウニンアジが浅場に上がって来るときって・・・」とジロー氏、僕はすかさず「うん、あれは絶対周期があるね。その周期さえ分かれば難しくないですよ。教えるのは構わないですよ。ところでさっきの焼酎なんだけど・・・」と、奪回成功である。

そんな焼酎獲得作戦を展開している間に、アンガウル島の西側に近づいてきた。西港近くの海を見下ろす丘の上に白いマリア像が見えた。これが有名な「アンガウルのマリア」だ。 ん?何か動く。と思ったらマリア像のところからボボイ達が手を振っていた。「よし、まず2名確保」と少しだけ安心した。2人が車に乗りこんで港方向に走らせるのを確認してからボートの船首を向く。目の前にはアンガウルの西港の岸壁が見えていた。その奥には初めて見るアンガウル島の豊かな緑が少しだけ降る雨に濡らされて青々と光っていた。

アンガウル島ダイビング編へつづく。


秋野
秋野 大

1970年10月22日生まれ
伊豆大島出身

カメラ好きで写真を撮るのはもっと好き。でもその写真を整理するのは大キライ。「データ」が大好物でいろんなコトをすぐに分析したがる「分析フェチ」。ブダイ以外の魚はだいたいイケルが、とりわけ3cm以下の魚には激しい興奮を示し、外洋性一発系の魚に果てしないロマンを感じるらしい。日本酒より焼酎。肉より魚。果物は嫌い。苦手なのは甘い物。

ミクロネシア・パラオ

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