南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

カヤンゲル・オーバーナイトツアー

昨日までカヤンゲル1泊のオーバーナイトツアーへ行ってきた。

カヤンゲルと言ったところでそれが何なのか分からない人もいるだろう。カヤンゲルとはパラオ最北の島で、カヤンゲル環礁とベラスコリーフというエリアを指す。どのくらいの広さかと言うと、だいたい勘で東京ドーム4個分くらいだろうか。このカヤンゲル環礁の中には4つの島があり、カヤンゲル州と成っている。人が住んでいるのはその中の一つで、人口はおよそ50人。たった50人で州にしてしまうのもちょっと強引な気がするが、まあいいだろう。

カヤンゲルは州なので州条例もある。その中の最たるものがお酒禁止令だ。そんな条例くそ食らえなのだが、法律ならば従わなくてはならない。抜け道はないのかと聞くと、現地で手に入れたら違反だけど、外から持ち込むのはOKなのだそう。なるほど、醸造したり販売はできないということか。ならば持ち込むべし、とせっせっとビールだけは自分でボートに積み込んだ。

条例があるなら議会もあるのだが、人口50人でいったい州の運営はどうするのだろう、と心配になってしまう。村の大人がそのまま議員といった感じなのだろう。「おい、お前のところの長男坊、そろそろ良い歳だから議員でもやったらどうか?」、「そうだな、ちょっと考えてみるか」などと言ったやりとりがなされているかどうかは知らないが、まぁそんな感じだろう。

島までコロールからスピードボートで約3時間。さすがに3時間ボートでかっ飛んでいるのは飽きてしまうので、途中のテールトップリーフで1本潜ってから島へと向かう。環礁の中に入ると水の色が濃紺からエメラルドグリーンに変わる。その向こうにカヤンゲル4島のビーチが見える。空はどこまでも広く、その青に入道雲の白が映える。何とも脳みそが溶けてしまいそうな美しさだ。うーん、良いなぁ。と一人でうなずく。

カヤンゲルに着いて最初に僕らが上陸するのは人の住む本島でなく、トーマス島と呼んでいる本島から3番目の島だ。私有島なので普通ならば無許可で上陸ができない、ちょっと特別な島だ。この島に上陸して弁当を食べて散策するのが目的。この島のビーチが気持ち良いのだ。ちょうど僕らが行った時は満月なので昼時が干潮の時刻、ビーチがどどーんと出てくる時間。綺麗な砂紋が現れて、その向こうには海鳥が羽を休めようと群れでいる。時たま風に乗るためだろうか、皆でバッと飛び上がる。瞬間、僕の目の前にはペパーミントグリーンの海と白いビーチと真っ青な空の背景に、海鳥が気持ち良さそうに羽ばたくシーンが広がる。

普段の生活では絶対に感じることの出来ない“特別な時間軸”がここには働いているに違いないと勘違いしちゃう。そう、自然というか景色がパーフェクトなんだな。ここではそれが当たり前なのだろうけど、これは特別なのではないかと思えてくる。うーん、難しいな。どうでもいいや、とにかく素晴らしい。

トーマス島は“トーマスさん”という人物の持ち島で、このトーマスさんはもう60過ぎのおじさんなのだ。出会いは去年初めてのカヤンゲルツアーだった時。本島のノースビーチで彼に出会った。実はこの時もトーマス島には上陸していたのだが、この時は私有地だということを知らなかった。上がっていたら州政府のレンジャーという人がボートでかっ飛んで来て怒られ、上陸30分で撤退を余儀なくされた。だから他のビーチで遊ぼうと思って、このノースビーチに来たという話をトーマスさんにしたら、「オオイ、あの島はおじさんの島だよ。次回からは来る前におじさんに電話しなよ。そしたら大丈夫だから。で、タバコ1本頂戴」と、このトーマスおじさんとの契約はタバコ1本で成立した。それからウチのお店はこのトーマス島へはフリーパスとなった。でも、今でもトーマスおじさんにタバコのお土産は忘れないようにしている。僕が直接トーマスさんの家にタバコを届けると「オオイ、良く来たな、島には行ってきたか?」と牛乳瓶の底のように厚い丸めがねの奥で大きな目をきょろきょろさせながら歓迎の意を表してくれる。タバコを一箱お土産に持っていくと、代わりにバナナやココナッツを山ほど持たせてくれる。お土産を持ってきたのは僕なのに、いつもこのお土産返しの方がなぜか多い。とにかくとってもいい人なのだ。

さて、そんなトーマス島を後に本島を目指す。本島と言っても、トーマス島からボートで5分。とっても近い。桟橋に着いて荷物を降ろすや、パラオ人スタッフ達は夕食用の魚を調達するためにその足で釣りへと出かける。僕らはBBQの準備と島内探検だ。船から降ろされたクーラーボックスを開けてみると、中にはカキカキに冷えたビールが飲んで欲しそうな汗をかいてこっちを見ている。上陸も終わったし、荷物も降ろした。後は散策するだけだし、ここはとりあえず飲んでおくべしと、プシュッ、とやる。ゴキュッ、ゴキュッ、っと喉に流れ込むビールが汗をかいた体にしみこんでいく。「あー、この為に生きてるぅ」と実感してしまう瞬間。横を見れば皆幸せそうな顔をしている。

喉を潤した後は散歩に出かけよう。目指すはノースビーチというカヤンゲル本島の北側のビーチ。まさにパラオ最北のビーチなのだ。途中にあるバスケットコートでミニバスケをやったり、発電所の見張り番と思われる人のギターを聴いたり、とにかく寄り道をたっぷりしながら進む。ノースビーチに着くともう潮が上がってビーチは狭くなってきていたが、それでも適当に貝殻を拾ったり、散歩したり、みんな自然にバラバラに遊びはじめた。そのうち棒倒しが始まる。大の大人が揃いも揃って棒倒しというのもなんだかとっても変なのだが、ここはカヤンゲル。みんな素直に真面目に棒倒しを真剣に遊ぶのであった。

結局、2時間半も散歩して戻ってきたころにはすっかり日は落ちていた。さあ、ここからが大人の遊び本番だ。家に着くなりあちこちでプシュッ、っと音が聞こえ始め、グリルにBBQの肉がドンドン乗せられていく。釣りに行ったチームは手に1m30cmほどのキハダマグロを持って満足気に帰ってきた。このキハダマグロがBBQが焼けるまでの“おつまみ”としての大役を果たす。身は刺身で“はらみ”はから揚げ。ドンドン運ばれてくるその味に舌鼓を打たない訳にいかない。右手の箸にはキハダの刺身、左手にはビール。うーん、唸ってしまう。これ以上ない最高の組み合わせにまたもや幸せを感じてしまう。コレデモカコレデモカ的なカヤンゲルの幸せ攻撃に、オレって幸せレベルが低いのか?と真面目に心配したくなるほど幸せな気分にさせられちゃう。この島にも困ったものだ。

島唐辛子を入れた、ピリッと辛い醤油にキハダの刺身を漬けておく。それを炊きたてのご飯の上に豪快にドカドカッと乗せて食べる。上品な食べ方じゃダメだ。“かき込む系”の食べ方でガツガツいただく。くーっ、たまらない。もうこれだけでも十分だが、さらに焼けてきたBBQをビールと一緒に流し込み、キャンプ基本の味を堪能しよう。仕上げは魚のスープを残りのご飯にぶっかけて“魚汁の茶漬け”である。しかし、ここまでくるとメンバーの何人かは既にお腹一杯で「食べれない」などと言っている。でも不思議、誰かが美味しそうに食べているのを見ると、「じゃ、ちょっとだけ」って、結局みんな食べだす。そうなのだ、やっぱり食べてしまうのだ。

きっと、命の洗濯って胃袋に負担をかけながらするのが正当なのだ。今だけは真剣にそう思うぞ。 そうやって大人たちの幸せの時間はパラオの一番北の島で贅沢に流れていくのであった。


秋野
秋野 大

1970年10月22日生まれ
伊豆大島出身

カメラ好きで写真を撮るのはもっと好き。でもその写真を整理するのは大キライ。「データ」が大好物でいろんなコトをすぐに分析したがる「分析フェチ」。ブダイ以外の魚はだいたいイケルが、とりわけ3cm以下の魚には激しい興奮を示し、外洋性一発系の魚に果てしないロマンを感じるらしい。日本酒より焼酎。肉より魚。果物は嫌い。苦手なのは甘い物。

ミクロネシア・パラオ

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