ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

第八話 エイジアンブルー(後編)

徐々に水深を上げてゆく。自分がドラム缶の中に入って、打撃面の小さな棒のようなもので、思いっ切り突かれた様な音と振動を感じた。全身と特に耳に味わったことのない不快感が襲ってきた。

ガイドの晃を見つめて、この音の正体を教えるように促した。するとスレートに「ダイナマイト」と書いた。瞬時に、何が起こったのか理解できたのだが、何故そんな事が行われているかは、想像もつかなかった。

何故ならば、ブリーフィングの時に「ここはナショナルパークの中ですから」というフレーズがあったことを覚えていたからだ。「ですから、ボートマンも公務員なんですよ」と言う話しに「へぇえ」と相づちを打っていた。

暫くして、2発目の衝撃と言うか、音撃が襲ってきた。初めほどの不快感はなかったが、半ば身勝手とも思えるような精神的な不快感が湧き上がってきた。ボートに上がってから聞いた話しだけど、水中では近くでダイナマイトフィッシングをやっているように聞こえるが、実際は10km以上も離れた、ジャワの海域でやっている音が届いているということだった。

先進国の原始的な漁法を必要としない人間から見れば、何と愚かな漁法だろうと思うが、彼らにしてみれば大きな御世話で、しかも底曵きなどの近代的漁法で、根こそぎ生物を浚ってしまう先進国の方が、自然の驚異だと言うのかも知れない。

ダイナマイト漁は、どんなに自然が豊かでも、破壊(犠牲)面積に対しての漁獲が割に合わないように思えるので、到底許される漁法とは言えないが、それでも彼らなりのルールで海とつき合っているに違いない。焼き畑などの農耕にしても同じ様な事が言えるが、絶対的で妄信的な大自然が背景にあって成立している。貧すれば窮する...窮すれば貪する、先進国には、すでに自然を信用できないくらいの大きな贖罪を背負い込んでいる。その負い目が、原始的な漁法を眩しく見せるのかも知れない。

射込んでくる光りに温度を感じ始めた頃、気配を感じて、ふっと後ろを振り返ってみた。そこには自分が現実に向かうために辿ってきたレールが見えた。その線路はフトモイを観察した辺りに、薄らと大きな薄いピンク色のウチワが、濃い青で霞んでいる辺りから続いていた。

ダイビングの刺激が強ければ強いほど、水面が見えてから水面に到達するまでの時間が長くなることは往々にしてある。この時、現実へ戻るために敷かれたレールを明確に意識するか、あるいは全く気にしないかで、自分の生命に対するリスクに大きな変化が生まれてくる。当然のことながら、気にしない...あるいは気にならなくなってしまえば、現実を放棄したことになってしまうだろう。

人によっては、窒素酔いなどの要因を挙げるが、そう言った物理的作用だけの問題ではないように思える。豊すれば裕する...圧倒的な自然を目の当たりにして、貧困な現実へ帰る事が嫌になってしまうことも、ある意味で考えられる。しかし、自分が戻らなければならない現実へのレールを、いかに滑らかにトレースして水面に辿り着くのか?

数限りない様々な海への憧れを、ここで終わらせたくはない。さぁ、大気圧の世界へ帰ろう。現実に戻るための、青い列車へ乗るタイミングを逸してはいけない。

この画像は、たまたま拾ったダイナマイトフィシングに使用する火炎瓶のような形状のものを、現地の人にお願いして、それらしく撮影したものです。


鉄
鉄 多加志

1965年生まれ
清水出身

生まれ育った環境が、都市部?の港湾地域に近く、マッドな環境には滅法強く、泥地に生息する生物を中心に指標軸が組み立てられている(笑)この業界では、数少ない芸術系の大学出身で写真やビデオによって、生物の同定や生態観察を行う。

通称「視界不良の魔術師」
静岡・三保

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