ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

第六話 キャプテンクックのお宝(中編)

さあ、クックでのダイビングだ。空腹は最高のスパイスだと言うが、長い距離を移動して来て潜る海の中は、空腹のスパイスを凌駕するほどに満足感を与えてくれる。どちらかと言うと、喉の乾きを潤す冷たいスコールのようだ。

そして、ラロトンガでは、初めてゴムボートに乗ってダイビングをした。ゾディアックかアキレスかは忘れてしまったが、6人乗りのボートに6名のゲストと1名のガイド兼キャプテンが乗っている。僕以外はどうやらみなさん、今年ワールドカップが開催された地の方のようだった。ポイントまでは15分程度だったが、器材と大柄な5名のゲストで船は身動きがとれない状態であった。最大限に気を遣ってくれていたのであろう。分かり易い英語で会話をしてくれている。ドイツ人って、日本人の様に気が利くっていうか、気を回してくれる。ラテン系の民族は、絶対にそんな事をしない。人に気を遣うなんてことは、まずありえない。会話は、バラバラの内容だったので、何処に参加して良いのか分からないままポイントに着いてしまった。

ゴムボートのバックロールがこんなにもやり易いとは知らなかった。(笑)ブリーフィングの時に、僕はカメラを持っていると言う理由で遊軍扱いされたので、見える範囲なら特についてこなくても良いと...聞こえた。(苦笑)だから、見える範囲で好き勝手に潜っていた。ホソカマスの群れとイソマグロが過ぎ去ったのが、メインだったらしい。

ボートに上がってからの会話で、それが分かった。みんながカメラの事(僕ではなく)を誉めるので、調子に乗って大学の時に習ったテキストに書いてあった文章を思い出して「私は、学生時代に毎日ドイツ語の勉強をしていました」とドイツ語で言って、って会話くらいしか知らないんですよ!と英語で付け加えたが、既に遅かった。ボート上のゲルマン魂は熱く炸裂し、まるで三国同盟を彷彿させるかの如く盛り上がった。途中、途中の英語の単語以外は...全く分からなかった。その時のガイドがイタリア系だったのは、悪い冗談のように思えた。別れ際にみんなに「ダンケ」と言うのが、精一杯のお愛想だった。これくらい海の中が賑やかだったら良かったのに...。夕食後、ホテルのバーで苦笑いをしながら、薄らと煙った下弦の月を仰ぎ見て、ヒットラーとムッソリーニについて考えてみた。

翌日も大きな収穫のないまま、ホテルに戻ってきてから、ビーチでスノーケリングをしてみた。満たされない気持ちと、撮り切れていないフイルムが自分をビーチへと駆り立てた。ちょっと雲がかかってしまったせいか?人は疎らで、軽器材しかつけていない自分が、まるで完全武装のヤル気マンマンに見えてしまう。いつもの悪い癖で、気が付くとビーチから遠く離れた場所にポツンと浮いている。フルスーツでハウジングを持って水から上がってきた東洋人は、リアルにこのビーチでは「浮いて」いた。(苦笑)

さて、本命のアイツタキへ移動する。双発のプロペラ機で飛ぶようだが、焼けるようなアスファルトの上で待機している地上係員はこの上なくラフな格好をしている。僕との差がビーサンとスニーカーの差でしかないほどに。数年前まで僕は、自分がダイバーである事が一目で分かるようなキャップを必ず冠っていた。それは、余分な事を聞かれない為の意思表示として非常に役に立っていた。地上係員の彼は、そのキャップに異常なほど興味を示し、その申し出を諦めさせるのに搭乗までの時間は、ボキャブラリーの全力投球であった。最終的に、彼の着ている制服まがいのポロシャツと交換なら応じると言ったら諦めてくれた。伝わったかどうかは疑問だが、彼のポロシャツの持つ意味と僕のキャップが持つ海外での意味は、同じなのだと言ったら、納得してくれたようだった。明らかにオーバーチャージを要求される重さの荷物を積んでプロペラ機は一路、アイツタキへと向かった。プロペラの振動が、まるでマッサージチェアーのように心地よく体へと伝わってきた。


鉄
鉄 多加志

1965年生まれ
清水出身

生まれ育った環境が、都市部?の港湾地域に近く、マッドな環境には滅法強く、泥地に生息する生物を中心に指標軸が組み立てられている(笑)この業界では、数少ない芸術系の大学出身で写真やビデオによって、生物の同定や生態観察を行う。

通称「視界不良の魔術師」
静岡・三保

ダイバーズ・プロ
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