ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

第三話 海外デビューはサイパン(後編)

初日の講習が終了して、ガーデンBBQを楽しんでいると、受講生の一人が「先生は、海外は他にどこの海へ行ったことがあるんですか?」と言った。初めてのダイビングを海外で経験している講習生を目の前に、カッコをつけたいのは山々なのだが、ヘタなウソはつくだけ損なことは明白だ。

「君たちのように、恵まれた環境になかったからねぇ?」海外ダイビングのスタートラインが同じだと言うことで、ガゼン僕に対して鼻息が荒くなった。つまりこの件で僕の格付けが下がったわけだった。(トホホ)

しかし、翌日午後のボートダイビングで下がった格付けは一気に上昇! タメ語になりかけていた会話が、敬語に戻ってゆく。(笑)

バックロールでエントリーすると、僕は浮力という翼を自由に操ることが歩行と同じレベルでできる。そして、当然のことながら、自分の意思を伴わない海底への接地を許さない。翼をもたない雛達は、底から羨望の眼差しを向ける。よく見ると、その視線はいつの間にか僕を通過して、天空を舞うように泳ぐ5ヒキのマダラトビエイに向けられていた。

視線を奪い返すように、僕はゆっくりと海底に仰向けになる。無限に続くかのように、レギュレータを外した口からは、ピカピカ光る輪が次々と現れる。ジャグラーが空高く、銀色のリングを放り投げるように。バブルリングは、今でこそ南方ガイドのお家芸になっているが、当時ここまで見事なチェーンバブルリングをする者は少なかった。講習生の視線は釘付けである。多分、自分の頭の中に、水銀色の輪っか!ができて、頭が浮き上がっている気分になっていることだろう。

集団催眠か、熱病に冒された人のように一点を凝視しているが、しかし視点は定まっていない状態であった。常に動くピカピカの輪っかを追って視点を移動させるために、網膜はブルーのグラデーションに暴露され続けている。しかも、反逆光の太陽の光を燦々と浴びながらそのブルーを見続けたのならば、それは日常に戻る事を、十分に拒絶するほどの美しさである。みんな完全に目がイッてる。

しょうがねぇなぁ...命だけは助けてあげるよ。

僕は、浮上のサインをみんなに送った。けど、アフリカの水を飲んだ者達と同じように、彼方達は再びこの場所を訪れるであろう。その時、僕は「青を掌る者」として海の中を君臨したのであった。


鉄
鉄 多加志

1965年生まれ
清水出身

生まれ育った環境が、都市部?の港湾地域に近く、マッドな環境には滅法強く、泥地に生息する生物を中心に指標軸が組み立てられている(笑)この業界では、数少ない芸術系の大学出身で写真やビデオによって、生物の同定や生態観察を行う。

通称「視界不良の魔術師」
静岡・三保

ダイバーズ・プロ
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