南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

戦争の遺産(1)

8月16日の朝日新聞の夕刊に、チューク(モエン島)のザビエルハイスクールが紹介された。『戦争の記憶』という終戦記念日を巡る特集記事の一こまである。かつて、旧・日本海軍の大きな基地があったこのトラック島には、数多くの戦跡や遺構が残されており、そのなかには、60年経った今も現地社会に貢献しながら利用されている戦跡や遺構が幾つかある。このザビエルハイスクールもまたそんな建物の1つである。鉄筋2階のとても強固な建築物で、旧・日本海軍の通信隊基地として使われた。アメリカ軍の攻撃をまともに受けながらもビクともせず終戦を迎えた。終戦直後は進駐して来た米軍の宿舎としても利用されたが、間もなくカトリック教会の手で、高校としての道を歩む事となり、現在に至っている。この建物は、馬渕建設(旧・馬渕組)によって建てられた為、この場所をチュークの人たちは今でも『マブチ』と呼び、この高校を、『マブチスクール』と呼んでいる。開校当時から現在に至るまでミクロネシア全域を代表するミクロネシア随一の高校である。

同じモエン島に『ナンタク』と言う地名・場所がある。現在のチュークの中心地で、官庁街や高級住宅街でもある。当時この当たりの丘陵地帯には広大な農園があった。トラック諸島に住む数多くの日本人や艦船に貴重な野菜や果物を供給するためである。当時の南洋諸島・ミクロネシアの各地には、南洋開拓団と言う移民団体があり、南の島の各地で盛んに農園開拓を行なっていた。この農園を、南拓(ナンタク)と呼んでいたため今にその名前が残っているのである。このチューク諸島でも沢山の農園開拓が行なわれ、主な島には今も『ナンタク』という地名が随所に残されている。モエン島の『ナンタク』は、飛行場の近くにあったため、進駐してきたアメリカ軍が、この南拓農園跡地に司令部を置き、その後この場所が官庁街として発展していった。現在、『ナンタク』といえば、チュークの官庁街周辺の地名となっている。

現在のトラック港(商港)周辺には、戦争当時のドーム型の建物が10棟程残っており、政府や民間会社の倉庫として利用されている。カマボコ兵舎と言われるもので、旧・日本軍の捕虜を収容した建物である。当時、モエン島は春島と呼ばれ、春島の中程にあるこの付近の村を『中村』と呼んだ。ここにアメリカ軍は、桟橋を造り、日本軍捕虜の送還を行なったのである。これが、日本軍捕虜送還の港となった『中村桟橋』であった。その後、手が加えられ、かつて捕虜送還のために造られた桟橋周辺は、1万トン級の船舶が接岸できる立派な港となっている。

当時、デュブロン島(夏島)にあった日本有数の海軍の軍港は打ち捨てられ、すでに航空機時代を意識していたアメリカ軍は、飛行場のあったモエン島を選んだ。現在のチューク国際空港は、日本当時の飛行場を整備したもので、アメリカ軍との共同使用となっている。当時、モエン島(春島)には、2つの飛行場があった。現在の飛行場が、第一基地と呼ばれ、もう一つの飛行場が、第二基地と呼ばれた。第二基地は、水上飛行機の基地でもあり、島の最南端の岬に造られた。戦後間もなく民間機が就航するようになると、コンチネンタル航空がいち早くこの場所に目を付けて、ホテルを造営した。『コンチネンタルホテル』である。現在は、『ブルーラグーンリゾートホテル』として世界中からのダイバーの憩いの場所として人気を博している。

このようにして、ホテル、学校、官庁街、港、空港、に至るまで、日本時代の遺構が今も現地の人達のために有効に利用されているのである。

現在は、モエン島が中心となった為に、モエン島の戦跡が目だって利用されているように感じられるが、かつての中心だったデュブロン島(夏島)には、もっともっと沢山の戦跡や日本時代の遺構が現地の人たちの間に息づいている。

戦争の記憶

チューク諸島
末永卓幸


末永
末永 卓幸

1949年1月生まれ
長崎県対馬出身

立正大学地理学科卒業後、日本観光専門学校に入学・卒業。在学中は地理教材の収集と趣味を兼ねて日本各地を旅する。1973年、友人と4人でチューク諸島を1ヶ月間旅行する。1978年チューク諸島の自然に魅せられ移住。現地旅行会社を設立。現在に至る。観光、ダイビング、フィッシング、各種取材コーディネート、等。チュークに関しては何でもお任せ!現地法人:『トラックオーシャンサービス』のオーナー。

ミクロネシア・チューク諸島

現地法人
トラックオーシャンサービス

P.O.Box 447 MOEN CHUUK
STATE F.S.MICRONESIA
#96942
Tel/Fax:691-330-3801

www.trukoceanservice.com
Suenaga@mail.fm
© 2003 - 2011 Yusuke Yoshino Photo Office & Yusuke Yoshino. All rights reserved.