南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

卒業

ここミクロネシア地方は、アメリカにならって、5月、6月が卒業シーズンとなっている。この時期になると毎週・毎週、何処かのハイスクールやエレメンタリースクール、キンダーガーデンなどの卒業式で島中が華やかなムードに包まれる。卒業生や、父兄が催す様々なパーティーが連日行なわれて、ローカルのホテルやパーティー会場は何処も満員である。お祭り好きなこの小さな島の人達にとって、卒業式はまたとない彼らの社交の場であり、お祭りでもあるのだ。

卒業生達は、この卒業式のお祭り騒ぎに備えて、1年も前からあの手この手で資金調達を始める。クラス全員での洗車活動、島内の清掃、各種バザールの開催など、様々な活動を通して資金を集める。父兄もそれを応援していろんな人達からの寄付も集まる。こうして調達したクラスのお金と、卒業式に仕入れたお金を使って、卒業生達は連日のお祭り騒ぎを楽しむ。ホテルに泊まり、パーティーを繰り広げ、お互いの家に押しかけては夜遅くまで騒いでいる。

我が家でも先週、次男・友(ゆう)がザビエル高校を卒業したのに引き続き、三男のヒロミもSDAスクール(8年生)の卒業式を終えた。この2人の息子も連日外泊やパーティーでここしばらくは家にも寄り付かない状況で、たまに着替えに家に帰ってくるだけだ。外泊とパーティーのはしごを延々と繰り返している。普段は、厳しく躾けている妻のカオルもこの時ばかりは自由に遊ばせている。

日本人に比べ、外国人の父親達は、家族の行事や家族愛をとても大事にする。その点では、ここチュークの人達も負けてはいない。ましてや、一生に一度の子供の卒業式となれば何があっても駆けつける。私もこの1週間で、2人の子供の卒業式を迎えたわけだが、残念ながら彼等の卒業式に出てあげることができなかった。どうしても外せない仕事があったからだ。

クラスメートみんなが、両親に見守られて卒業式を迎えたのに比べ、我が子だけが父親の居ない卒業式を迎えた。とりわけ、慣れぬ環境で8年間、12年間、を頑張ってきた子供2人の事を思うと、ちょっと複雑な気持ちになる。ところが、クラスメートの父親の中には、日本人感覚からすると、どうしても仕事を休めないと思われる人たちが何人も居るのを私は知っている。しかし、この人たちも全て仕事を休んで卒業式に出ていたのである。それどころか、沢山の身内の人達も仕事を休み、自分の甥っ子や姪っ子、いとこの為に昼も夜も駆けつけてお祝いをしている。

1ヶ月程前の話である。ある団体が、9人乗りの小型飛行機をチャーターしようとしたことがある。その飛行機のキャップテンはミクロネシア人でとても信頼の置ける人である。ある日、このキャップテンから電話連絡が入った。予定していたチャーターのスケジュールがどうしても取れないので日にちを変更して欲しい、と言ってきた。非常に重要な用件が発生したのでどうしてもこの日には飛行機を飛ばせないと言う。今後の事もあるので、さりげなくその重要用件とやらを聞いてみた。

『この日に、娘の小学校の卒業式がある。この日はどうしても飛行機は飛ばせない!』

うーん・・・!
受話器を持ったままうなってしまったものである。

日本人との習慣や国民性の違いはあるにせよ、彼らの家族愛は筋金入りである。この精神はいったいぜんたい何処から来るものなのか、と、いつも考えさせられる。こんな愛情のあらわれが卒業生の首にかけられたマラマー(首飾り)の数々である。中にはドル紙幣を長々と連ねたマラマーを何本も首に掛けている子供もいる。それぞれの父兄が何十本ものマラマーを持って、身内や友人の子供達にお祝いの言葉と共に首に掛けていく。こうして、年に一度の卒業祭りが延々と繰り広げられていくのである。

チューク諸島
末永卓幸


末永
末永 卓幸

1949年1月生まれ
長崎県対馬出身

立正大学地理学科卒業後、日本観光専門学校に入学・卒業。在学中は地理教材の収集と趣味を兼ねて日本各地を旅する。1973年、友人と4人でチューク諸島を1ヶ月間旅行する。1978年チューク諸島の自然に魅せられ移住。現地旅行会社を設立。現在に至る。観光、ダイビング、フィッシング、各種取材コーディネート、等。チュークに関しては何でもお任せ!現地法人:『トラックオーシャンサービス』のオーナー。

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