南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

チューク諸島の海から

チューク諸島は今、南洋桜が満開の時期を迎えている。

かって南の島々に移り住んだ日本人達が、本国の桜を懐かしみ、それにちなんで付けた名前だ。大きな樹いっぱいに真っ赤な燃えるような花をつけて、島のあちこちを彩っている。チューク諸島では3月頃から咲き始めるこの南洋桜は7月頃までのおよそ半年間の長きに亘って、旅人や島人達の目を楽しませてくれる。

本国のか弱い桜と違い、ド派手で、いかにも南国の女性を想わせるような情熱的な花だ。大きな花びら1つ1つの寿命の長さもさる事ながら、後から後から蕾が膨らんでは真っ赤な花をいつも咲かせている。燃える太陽をいっぱいに浴びて、真っ赤な炎の如く咲き誇るこの花は、正に『南洋桜』と呼ぶにふさわしい。

この南洋桜は日本での正式名は『鳳凰木』と言う。その花の形状が古代中国の伝説の鳥、『鳳凰』に似ているところからこの名がある。またの名を火炎樹、これは燃えるような花の状態から名付けられたものだ。その名は英語でもFlame Tree(炎の樹)と呼ばれ、真っ赤な炎を思わせるこの花の特徴をよくあらわしている。世界中の熱帯から亜熱帯地域に分布しており、それぞれの地域で、象徴的な花として南国の人々に愛されている。街路樹や公園、民家の庭、山裾にと、1年の半分以上をその独特の真っ赤な花々で飾っている。

アフリカのマダガスカル島原産で、1800年代初頭、ヨーロッパ人によって世界中に広められていった。ミクロネシア地方にはスペイン時代にグアムにもたらされ、その後各地に広まったと言われているが、こちらチューク諸島には、はたしてどのような経路で入ってきたのか定かではない。この樹が日本時代になってからもたらされたのか、それともドイツ時代、あるいはスペイン時代まで遡るのか・・・・・。キリスト教の布教や貿易で、最初にこのチューク諸島にやってきた欧米人達はポナペ方面から移住してきた。1つヒントになるのは、当時日本時代の中心地だったデュブロン島や他の島々よりも、西洋人が最初にやってきて住みついたこのモエン島に多く分布することである。

そう考えると日本統治が始まる以前、1900年以前に欧米人によってポンペイ方面からもたらされた可能性が高いと言える。最初の1本が誰の手によって、何処に植えられたのか、ちょっと興味のあるところではある。

鳳凰木は大きな樹木で、その大きな枝をいっぱいに広げ、美しい花と木陰をいつも南の島の人達に提供している。チューク諸島では、人が良く集まる公園やグランド、学校、教会などには必ず植えられている。3月頃から7月頃にかけて咲くのが普通なのだが、最近は季節外れに咲くものもあって、年中この赤い花を見かけることが多い。鳳凰木はマメ科の植物で、花が散った後には大きなサヤ豆状の莢(さや)をつける。莢の長さは大きな物で50センチ程にもなる。

東南アジアでは、この莢の青いうちに豆を取り出し、食用にしているところもあるが、チューク諸島では食べる者はいない。枯れた莢の中には黒褐色の硬い大きな豆が出来る。食べれる物ではないが、子供達の遊び道具だったり、時には民芸品にも利用されたりもする。

南洋桜の花びらはとても丈夫で、花が散ってからもその周辺を真っ赤なじゅうたんを敷き詰めたように染めている。少々の雨や風にもビクともしない。箒(ほうき)で掃いてしまうのがもったいないほどである。もし、自分の屋敷があったなら、家の周りにこの南洋桜をたくさん植えて、家の周りを真っ赤な花のじゅうたんにして暮らしてみたいと思ったりもする。

大きく開いたその花びらは、正に鳳凰が凛として空を仰いでいるかの如きもので、その名に恥じるものではない。『花の命は短くて・・・・・』という林扶美子の詩があるが、こんな花の概念を根底から覆すような、あまりにもたくましく美しい花だ。もし、彼女が南の島で生きていたのなら、きっとまた違った詩を詠ったのかもしれない。南の島の花と女は、かくも情熱的で美しくたくましいものかと。。。

南国の花に乾杯!

鳳凰の花の下で
チューク諸島

末永卓幸


末永
末永 卓幸

1949年1月生まれ
長崎県対馬出身

立正大学地理学科卒業後、日本観光専門学校に入学・卒業。在学中は地理教材の収集と趣味を兼ねて日本各地を旅する。1973年、友人と4人でチューク諸島を1ヶ月間旅行する。1978年チューク諸島の自然に魅せられ移住。現地旅行会社を設立。現在に至る。観光、ダイビング、フィッシング、各種取材コーディネート、等。チュークに関しては何でもお任せ!現地法人:『トラックオーシャンサービス』のオーナー。

ミクロネシア・チューク諸島

現地法人
トラックオーシャンサービス

P.O.Box 447 MOEN CHUUK
STATE F.S.MICRONESIA
#96942
Tel/Fax:691-330-3801

www.trukoceanservice.com
Suenaga@mail.fm
© 2003 - 2011 Yusuke Yoshino Photo Office & Yusuke Yoshino. All rights reserved.