南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

チューク諸島の海から

この半年あまり放置していた小さな菜園に、やっと種を撒く事ができた。正月のツアーが一段落した数日、11歳の子供と一緒に、荒れていた小さな畑の手入れを済ませた。キュウリ、なす、小松菜、オクラ、ピーマン、豆、等の種を撒き終えたところだ。今はまだ、小松菜の芽が出てきたばかりだが、これからの数ヶ月間はまた、これら野菜の苗を育てながらの楽しい毎日が続く。

この小さな菜園も、子供の情操教育の一環にと、家の軒下の周りに土を運び子供達と一緒に作った菜園だ。まだ出来て1年半程にしかならないが、それなりにいろいろな新鮮な野菜を我が家に運んできてくれた。畑を整備して、草を取り、耕し、種を撒き、芽が出てくる。雨が少ない時は毎日水をやり苗達を大事に育てていく。子供達と一緒に畑を育てて行くその過程がとても楽しい。

苗が段々と大きくなり花が咲き、実を付け出す頃には、子供達の表情にもうきうきした様子が手に取るようにわかる。そのうきうきした表情も収穫した時までで、うきうきと野菜を食べてくれれば親としてはもっと嬉しいのだが・・・・。なかなかそうも行かない。

二十数年前、のんびりとした人生を送ろうと思い、やって来た南の島だが、思いの他のんびりとはいかない。お客様のお世話で忙しいのは大歓迎なのだが、私の忙しいのは、お客様よりもむしろ、ここでの生活環境にある。家を構え、家庭を持ち、子供達を育て、島社会に溶け込んだ生活していると何かと毎日用事が出てくる。しかも日本人・現代人としてのプライドを保ちながらの生活となると、島人達の数倍の仕事量と用事が加算されてくる。しかもその用事をさばくのには、現代社会の優に10倍の時間と労働を消費する。

信じられないだろうが、コピー1枚取るのにも車で往復10キロは走らなければならない。しかも、シミや汚れの無い、きれいなコピーを取ることはこの島では不可能に近い。役所に行って用事を済ませようとしても、停電で閉まっていたり(最近では停電している時間の方が長い!)、担当がいなかったり(ただサボッて居ないだけなんだが)、挙句の果ては、ペンが無いから書けないと言う。(オイ、オイ!)なんらかの支払いをしようとすると、今度は、お釣りがないから受け取れない、などと言ってくる。万事が万事この調子で、まともに1度で仕事や用事が片付いた試しが無い。島の人達はそれでも全く気にすることはない。普段の生活や組織がそういうパターンで成り立っているからだ。

ところが、我々は彼等とは違う次元で仕事をしている。完璧を望んではいけないのだが、仕事柄、あるいは国民性からか、ついつい完璧な仕事を望んでしまう。そういう私達にとっては、南の島の日常生活は意外とストレスの源でもあるのです。私の胃潰瘍がいつまでも完治しないのは、きっとそのせかもしれない。胃潰瘍の治療に日本に行った時、いつも医者に言われる言葉がある。『南の島でもストレスがあるんですか?』と・・・。その度に私は、一人、心の中で笑っている。

それでもやはり、チュークが好きで住んでいる。海の自然はすばらしいし、そういう島人達も屈託がなくて愛嬌がいい。そんな自然を相手に仕事ができる喜びは何物にも変え難い。むしろ、島人達が現代人並に仕事に完璧さを望み、奔走するようになればこの小さな島社会はたちまちのうちに崩れ去ってしまうだろう。今ある自然は破壊され、島の良さもたちまちのうちに無くなってしまうだろう。私達現代人は、そんな自然破壊のプロセスに知らず知らずのうちに手を貸しているのかも知れない。複雑な思いだ。

子供達の為にと思い、作った小さな菜園だが、一番張り切って楽しんでいるは他の誰でもない、私自身だ。忙しい仕事が何日も続き、畑の世話をできないでいる時、ふと大きくなった野菜を見ては心の安らぎを覚えたりしている。そして私が子供達以上に張り切っているのは、美味しい新鮮な野菜が食べれるからでもある。

『郷に入りては郷に従え、郷に入りて我を忘るな』いつの頃からか人生訓の1つとしてきた言葉がいつも頭をよぎる。

南海に暮らす・チューク諸島
末永 卓幸


末永
末永 卓幸

1949年1月生まれ
長崎県対馬出身

立正大学地理学科卒業後、日本観光専門学校に入学・卒業。在学中は地理教材の収集と趣味を兼ねて日本各地を旅する。1973年、友人と4人でチューク諸島を1ヶ月間旅行する。1978年チューク諸島の自然に魅せられ移住。現地旅行会社を設立。現在に至る。観光、ダイビング、フィッシング、各種取材コーディネート、等。チュークに関しては何でもお任せ!現地法人:『トラックオーシャンサービス』のオーナー。

ミクロネシア・チューク諸島

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