潜るコピーライターのアンダーウオーターズポエム 豪海倶楽部  

Mother's beacon 〜ぱいぱい塔〜 第三話

ジュンペチの泡ん子から飛び出したゴルゴルは、それからずっとマシロの泡ん子に寄り添うように飛んでいるんだよ。ときどき泡ん子が弾んだり、くるくる回ったり、楽しそうな雰囲気が伝わってくる。おや?向うの2プクがジュンペチの方を見て笑っているね、何のことかな?きっとゴルゴルのかくれんぼが成功したことが嬉しいんだね。だったらジュンペチも笑わなきゃ・・。よし!

「に・」

お口を“に”の形にした時に、マシロが話しかけてきたよ。
「ジュンペチ〜〜!疲れた顔してどうしたの〜?」ってね。

「え?ううん。そうじゃない・・。えっと、、、大丈夫だよ」

「ほんと〜?。無理しないで休みなよ〜」

ちがうんだけどな。元気ない顔してるのかな。心配させちゃぁいけないけど、心配を無にするのもいけないな、って思ったジュンペチは、お口の形をなるべく変えないようにしながら続けたよ。
「う・うん、わかった。それより、さっき楽しそうに笑っていたね?」

「そうそう、ゴルッチったらまったく楽しいんだよ」

「ゴルッチ?」

「うん、ゴルゴルのあだ名だよ。僕のことはマシロッチって呼ぶんだよ」

「そうなんだぁ・・・・・・・・・・・・・・・。」

「それでね、ゴルッチと『ジュンペチの事はなんて呼ぼうか?』って考えてたんだよ〜。でもジュンペチには最初から最後に“チ”があるから、新しいあだ名はいらないかも?って、笑ってたの。うふ。ね、でもこれで・・、え?」

ジュンペチはちょっとびっくりしたような軽いショックを受けたよ。ふだんなら、あだ名の事なんて何とも思わないのかもしれないけど、今はちょっと違っていたんだ。だってマシロとジュンペチで決めた「2プクの(大切な)冒険の旅」なのに、マシロはゴルゴルが付いてきている事をずっと黙っていたんだもの。もしかしたら、ゴルゴルを誘ったのはマシロかもしれない。そしてなぜ誘ったかというと、ジュンペチと2プクで旅に出ることが嫌だったのかもしれない・・・って、考えないようにしていても、ぐるぐると回る不安に占領されそうになっていたんだ。だからあだ名の事の肩の上に、ずっと気になっていたぐるぐるの不安がくっついて、カケ算するみたいに大きくなってしまった。勢いはマシロの話をさえぎるようにして嫌言をいわせたんだ。

「なんで?!・・・ジュンペチは?!・・。ううん、いいっ!ジュンペチが最初から最後に“チ”の付いた名前なんだよ!ジュンペチのだよ!なのに、ゴルゴルが真似をした。なのに、マシロはゴルゴルにも“チ”をつけた。やだ。それに内緒ばっかりだ。なんだか嫌だ。嫌ばっかりだ。」

今度はその嫌言をジュンペチの泡ん子がさえぎった。
まるで嫌々をするように何度か震えたんだ!
ブルブルッ。ブルブルッ。ってね。

「え?よく聴こえないよ?」と、困り眉のマシロ。

ジュンペチは言ったとたんに後悔をしたのでマシロに聴こえなかった事にホッとした。もしかしたら聴こえないふりをしてくれたのかもしれない。でもとにかく嫌な子になりそうだったところを、泡ん子が助けてくれたみたいな気がしたんだ。そして
「ううん。なんでもない。すこし眠るね」って言ったんだよ。

あれからどれくらい経ったのだろう?かなりうねっているかんじだし・・恐い。眠ったふりをしていると、時間を長く感じるのかな?それにしても、そろそろ海面にでてもいい頃じゃないのいかな?

「おかしいな・・。どうやら思っていたよりも早い」
ゴルゴルが難しい顔をして雰囲気を発した。

「・・・どちらかと言えば遅くないかい?」
マシロもなかなか海面に着かない事を変に思っていたらしいね。
けれどゴルゴルが継いだ二の句は、意外な事柄だったんだ。

「ちがう。予想以上の早さで海が深くなりはじめてる。って言ったんでぃ!」

「海がっ!海が深くなっている?!そうか、そのせいでこんなにも海面が遠いのか!。・・でも・待って!海が深くなっているということは!!」

「へんっ。どんどん空が薄くなっていってる。ってぇことさ」

「だって、お空には・・・・・」

「ああ、そうさ。こりゃぁそうとうにヤバイぜ」

マシロとゴルゴルは、かなり厳しい顔つきになっていた。ジュンペチは、なにがなんだかよくわからないけれど、不安な気持ちがして、おずおずとマシロ達の泡ん子に近づいていったんだ。

「マシロ〜。こわいよぉ〜。」

マシロは考え事をしている様子だ。そして
「そうか・・。モンジィはまぶたの虹が本当の虹とより遠く離れはじめていることを感じていたのかもしれない・・・」
って、昔の文字を一文字ずつ確認するようにつぶやいたよ。

「モンジィ〜。帰りたいよぉ〜。」
ジュンペチはわけもわからずに半泣きだ。

「ジュンペチ?ダメだよ、今は・・。今はダメだ。モンジィとの別れの雰囲気をおもい出してごらん。少なくともモンジィは何かを察していた。なのに僕達を旅立たせた。きっと理由があるからだよ?それを確かめなきゃいけないよ。」

「そうでぃ、なに言ってやがる。それに、もう・・。」

「それに、もう?」×2

「・・・・・・・・・・・」

それに、もう?なんだ?あれ?頭の中がわんわん鳴るよ!なんだろ。
わんわんがわうんわうんになって、ぐぅわおんぐぅわおんになった。
上だか下だか方向がまぜまぜになって、景色が全部歪んでいる!
青!緑!赤?黒っ!光がぐにゃぐにゃになってる。
ぐにゃぐにゃが突き上げてくるっっ。
なんでー?完璧に波の線がおかしいよ!なにこれー!
本当は考えるひまなんてなかったんだ。
身体も意識も水も光りも全部まざってぐにょぐにょになったんだ。
!!身体の中身をひっくり返しそうなうねり!!

ザザザザザザァァァァーーン!

津波だっ! って気付いた時には、ものすごい音と勢いで波が海から突き出していた!
押し出されるように3プクは海から飛び出したんだよ。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ」

大きな大きな津波だった。
まったくよく助かったものだ。3プクはトッサにお互いを心配しあう雰囲気を発したので、それを感じた泡ん子が気合いで固く固くなって守ってくれたんだ。これは、心の本当の奥のほうでは、3プクがちゃんと好き同士の絆なんだ、という証明のような出来事なのだけれど、ジュンペチは芽生えそうになっている“疑いの心”のせいで、真の雰囲気が見えなくなっている・・・。

ジュンペチが意識を取り戻したのは、心地いい音が聴こえたからだ。サラサラ〜。サワリラ〜。。。う・・うん、、何の音だろう?聴いたことないけど優しい感じがする。何かがそっと触れあうみたいな?挨拶の雰囲気を響きにもっているね。。

『こんにちは』サラサラ〜
『よい旅でしたか?』サラルリン
『はい。よい旅をどうぞ』サラリサラルリロ
『ありがとう』サワリロ〜ン
『さよなら』サワリラ〜
『ありがとう』サワリロ〜ン
『さよなら』サワリラ〜

それだけで気持ちを伝えあえそうな挨拶達。
ジュンペチは、うーっすらと目を開けてみたよ。

うわっ。視界いっぱいにハートの世界が広がってる。風に舞うたくさんのハート・・・。陸さくらだ!ここはもう海の外なんだ!ついに来た。陸さくら、、花びらがハートなんだね。“想い“なの?想いが触れあう音?心地いい。こんなにもたくさんのハート。たくさんの想い。たくさんだよ。いっぱいだよ。いくつもの・・・・。そうだ、きっと世界中みんなに想いを伝えたいんだ。みんな分の想いだ。きっとそうだ!

“ぱいぱい塔”が見ている。なんてさり気なく。ごく自然に佇んでいるのだろう。飾りなんてなんにもない。ただ花びらに映えている。

「会いたかった。。」

マシロ?マシロはどこ?この気持ちをマシロと分かち合いたい!マシロ?マシロ?陸さくらだよ!花びらが・・・・ほら。見て。

「マシロ?」

マシロのとなりに居たのはゴルゴルだった。ジュンペチから遠く離れた2プクは泡ん子を並べて、反対方向のお空を見上げていたんだ。

「マシロ!マシロ!何してるの?こっち向いてよ。ジュンペチと一緒に見ようよ。どうして?あんなに一緒に見ようねって約束していたのに。マシロ〜。。。」

雰囲気が届かない。届かないよ・・・・。もうだめだぁ。抑えていたはずの気持ちが・・、また今回の気持ちにカケ算みたいな動きをして、ズズンと倍倍になって、一気にふくらんで、一番嫌な気持ちだけをはみ出させる!

「マシロのばかー!マシロはジュンペチの事が嫌いになったんだ。ゴルゴルの方が好きなんだ。だから、だから。マシロなんか嫌いだ!大嫌いだー!お、お池に、、、『だめだ!いやだ!言いたくなのに!』お池に、、お池に帰っちゃえー」

ぱりん。

乾いた音がした。いままで何枚も何枚も大切に重ねてきた想いが、全部カサカサになって、なくなって、はだかんぼで孤独の入り口をノックしたみたいな音だ。

「いやぁー!」 割れた泡ん子からまっ逆さまに落ちてゆくジュンペチは、落ちながらも『こんなこと前にもあったな』って、ぼんやりと昔の事などをおもい出していたんだ。

落ちゆく線はサミシイを、サミシーとままにひっぱっていく。遠い遠い終わりのない線。重ねた月日を引き返しても、更に引き返しても、尚まだえんえんに・・・・(ブレが生じた起点にさえもとどかない?)

ぷくん。

まる?。。まるだ。やわらかいまるが線を終わらせてくれた?
マシロ。
ジュンペチはマシロの泡ん子に包まれていた。

「大丈夫かい?」
変わらない笑顔・・・・。

「マシロ?助けてくれたの?」

「僕達バディじゃないか。。何があっても助けるよ?」

「・・ありがとう。けどそれはバディだからだね?ジュンペチの事は嫌いだけれど、バディだから助けてくれたのでしょ?ジュンペチはマシロがとても嫌がる事を言ったもの。もうジュンペチの事が嫌いになったのでわないの?もっと嫌いになったのでわないの?」

「言われたのはとても嫌だったよ、悲しかった。でも嫌いにはならないよ」

「どうして?わざと嫌がる事を言ったんだよ」

「わかってるよ。でも『言いたくないのに!』って、聴こえたよ?その雰囲気の方が強く大きかったよ?」

「だけど、マシロの事を大嫌いだと言ってしまった」

「僕の中に居るジュンペチは『僕の事が大好きだ』って言ってるよ?ちがうの?それともジュンペチの中に居る僕が『ジュンペチの事が嫌いだ』とでも言ったのかい?」

「ううん。ううん。ジュンペチの中に居るマシロは、ジュンペチを好いてくれているの。けれどもね、マシロの中に居るジュンペチの事をマシロは好いてくれているのかな?って、自信がなくなってしまったの。そうするとマシロに裏切られたみたいな気持ちになって・・」

「それはちょっとダメダメだね。相手が自分の事を裏切ったと思うのは、相手の中に居る自分をしっかり信じていないからじゃないのかな?・・・ちょっと難しい言い方だけど。僕がジュンペチを嫌いにならないのは、ジュンペチの中に居る僕を信じているからだよ、そうすればジュンペチの中の僕が『ちゃんとジュンペチから愛をもらって育ってますよ』って、言ってる声が聞こえるよ?ジュンペチには、僕の中に居るジュンペチの声が聴こえないかい?」

「う・・・ん。少しや、、ややこしい・・。少し、今少し頭がパニックなので今はちょっとわからないの・・。でもマシロがジュンペチの事を嫌いになってなくて良かった。」
そんなややこしい事を考えてる余裕もなかったジュンペチは、マシロが包み込んでくれたことにホッっとして、今度は目の前の事に気をうばわれていたんだ。

「うふ。少しややこしい言い方をしすぎたね。でもだんだんわかってほしいなと思うよ。・・・“ぱいぱい塔”にはもう会ったよね?とても自然な存在だった。。あまりにもすーっと、心に入ってきて。ちょっとびっくりしたけど、お母さんってそんな感じだものね。」

「うん・・・」

「来てよかったね。・・・どう?気持ちは落ち着いた?なら、落ち着いた気持ちのまま見てごらん。僕とゴルッチが見ていた方向を・・」

「ちぇーっ。なんでぃ。なんでぃ。マシロッチは優しすぎるぜ。こんな時だからこそビシーッっと言ってやんなきゃいけねぃのによぅ。ビシーッっとよぅ」
そっぽを向いたゴルゴルからは、こんな雰囲気が伝わってきた。

あの時マシロとゴルゴルは、陸さくらの花びらの行方を目で追っていたらしいんだ。ジュンペチもその雰囲気を追ってみたよ。花びらは一定方向に向かって舞い上がっているようだね。くるくるら線を描く花びらは、お空の・・・?あっ!よく見ると青い青いお空に、大きな大きな破れ目がある!

「マシロ達はあれを見ていたのっ?」

「そうだよ、、ひどく破れているんだ・・。話には聞いていたけれど、実際に目にした驚きはそうとうなものだったよ。しばらく呆然としてしまっていたのも本当だけど、ジュンペチが目を覚ます前に、気持ちを落ち着けておかなければいけないね。ってゴルッチと相談していたんだよ」

「そ・そうだったの、、、」

「そうでぃ。ったく、そんな気づかいもわからずに、マシロ〜マシロ〜って、やいやいやいやい騒ぎっ立てやがってよぅ」
さっきからゴルゴルはいらいらしている。

「花びら、、、、、吸こまれていってるね。ううん。お空から宇宙こぼれてる」

こわい、というよりももっと複雑な心境だった。“想い”でいっぱいのハートが、はらはらと無残に消えてゆくみたい。やっと見れたのに・・胸がキューーンとなるよ。。。

「マシロ・・、もしかして。これ・・『ハカナイ』?」

「う、、ん。・・激しく胸が詰まる感じだね。けど、どうなのだろう・・。これは『ハカナイ』ではなくて、『ハカナイ?』ではないのかしら・・。見て、あそこの枝、少し気の早い枝のようだよ、サクランボさんを産んでいる」

「ん?あ・ほんとだね。あ・あっちの枝にもまるまりかけのがあるよ」
よく見ると、サクランボの枝や、蕾みかけの枝もある。こんな事態にもかかわらず、ううん。事態なんて関係なく。陸さくらは命の育みをしているんだ。

「僕は『ハカナイ』という雰囲気は、全て消えて無くなってしまう絶望的な喪失感?のような気がするんだ。けれど僕達が本当に知りたかった『ハカナイ?』の、そしてそのまた向こうにあるハテナな雰囲気とは・・・、再生するためには一度消えなければいけないんだよ。という意味の『再生と“にプクいち“のサヨナラ』のような気がするんだよ。。」

そう・・、そうかもしれない・・・。たしかモンジィもそんな風な事を言っていたもの。陸さくらの花びらは美しい、けれど散らなければサクランボは育たない。新しい命はうまれないんだ。だから散る事が更に美しいんだ。ジュンペチが聴いた花びらさん達の挨拶は、『さよなら』さえもが決して寂しそうではなかったもの。

「マシロ、さっきはごめんね。最初に一緒に陸さくらを見れなかった事が悲しくて、困らせてしまったけど・・。ジュンペチは、今こうやってマシロとサクランボの枝を見れたことのほうが嬉しいと思うの」

「少し『ハカナイ?』の欠片がわかった気がするね」

空で弾けた津波が、ひんやりとしたベールをおろしながら虹の姿をなぞったよ。表面いっぱいにきらめく露がルルッとすべった。まるでモンジィが2プクの仲直りを喜んでいるような感じだね。

「このキラキラをモンジィへのお土産にしよう」
ジュンペチはそうつぶやくマシロをとても誇らしく思った。
2プクは見つめあいニッコリとしたんだ。
マシロの泡ん子の中を爽やかな香りが吹いた。

「やれやれ、ったく。こんな時にサクランボの話しかぇ?『ハカナイ?』とか、そのまた向う。。とか、んなこたぁいちいちゴタクを並べったてなくとも実感すればわかることじゃぁねいか!それよか空の破れ目にもっと驚けよぅ!」
まったくゴルゴルは、なにかに急かされているように落ち着きがない様子だ。

「驚きすぎてるよ!ゴルゴルさっきの津波はなに?それに『それに、もう』って、どういう事?なにかあの破れ目と関係があるような気がするのだけど」

「地球が震えたんだよ。来たるべき時の前に、防ぎようもない事実が待っている・・・。怯えてるんだよ。おそらく、もう、、、いや確実に、最後の氷が溶けちまったのだろうさ」

「!。」

「飽和だよ。」

「!!。いつか来る、と言われていたあの飽和の時が?」

「そうさ、まだもう少し時間があると思っていたが・・・」

「どうなるの?」

「“飽和”と言えば聞こえは悪いが、“満ちる“と言葉を代えれば、それ自体はむしろ迎えるべきことだという事がわかるだろう。。それよりも、時が早すぎた事が問題だ。それに・・見たろ?こっちの空は破けっちまってるんだぜ。この事実はどうにもならない。次に地球が下を向くとどうなるよ?」

「やだ。海が宇宙にこぼれる?!!!」

つづく

お話は来月号へ続きます。。。


仲
JUN-P(仲 純子)

大阪在住ファンダイバー
職業:コピーライターとか

1994年サイパンでOWのライセンスを取得。

宝物はログブック。頁を開くたび、虹のような光線がでるくらいにキラキラがつまっています。

海に潜って感じたこと、海で出会った人達からもらった想いを、自分のなりの色や言葉で表現して、みんなにも伝えたいなぁ。。。と思っていました。そんな時、友人の紹介で雄輔さんと出会い、豪海倶楽部に参加させていただくことになりました。縁というのは不思議な綾で、ウニャウニャとやっぱりどこかで繋がっているんだなぁ・・って感動しています。どの頁がたった一枚欠けても、今の私じゃないし、まだもっと見えてない糸もあるかもしれない。いままでは、ログブックの中にしまっていたこと・・少しずつだけど、みなさんと共有してゆきたいです。そして新しい頁を、一緒につくってゆけたら嬉しいです。