ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

思い込み

年明けに帰省し、1週間ぶりに島に戻ってきて、久しぶりに八重根に潜ろうとしていたときのことです。

カメラをセッティングしながら「何を撮ろうかな」と思っていた私に、親方が「マスダオコゼがいるから撮ってくれば?」と場所を教えてくれました。確かにマスダオコゼは、私の留守中、店のブログに何枚か写真が掲載されていました。写真でみる限り、ツマジロオコゼと同じくらいの大きさ、形もそっくり、少しゴツゴツといかつくしたような感じ。体の表面に藻が生えたような小汚い茶色い姿をしていました。私はその写真を見直して「じゃ、探してこようっと!!」と、その場所へ出かけたのです。頭の中には、茶色いゴミのようなマスダオコゼ。

親方の話では、同じ枯葉だまりで、ツマジロオコゼのアルビノ(本来の色素がない白い個体)が見つかるよ、とのことでした。茶色いマスダオコゼと白いツマジロオコゼ。頭の中で復唱しながら、手のひらでポンポンと枯葉だまりを叩きます。フワフワッと枯葉や枝が舞い上がり、その中から不自然な動きをするものがヒラヒラッと現れます。

最初に出てきたのが、白い魚でした。

「これが、ツマジロのアルビノね。」

と思いした。

目的はマスダオコゼですが、これも撮っておきましょうと、撮り始めました。

でも、ファインダー越しに見ると、何だか変なんです。いや、最初から変だなとは思っていたのです。妙に体が分厚く、がっしり。動きも体が重たそうで、どたどたと移動します。しかも、逃げる先が枯葉だまりの中ではなく、砂地の際の岩壁を登り始め、サンゴの上にまで上がっていってしまうのです。こんな崖を登っていくツマジロオコゼなんて見たことがありません(ポニョじゃあるまいし)。

「変なの!」

さて、次は本命のマスダオコゼ。しかし、他の枯葉だまりに遠征してみても、出てきたのは普通の茶色のツマジロオコゼだけでした。ガックリ。。。 店に戻って

「どうだった〜!?」

と尋ねる親方に

「普通の茶色いツマジロと、変なツマジロのアルビノしかいなかったー!」
「あら、じゃあ、マスダオコゼは移動しちゃったのかな?」
「一生懸命探したけど、いなかったよぉ。」
「でも、ツマジロのアルビノはいたでしょ? それと同じ場所なのになぁ。」
「ふうん。でも、あのアルビノ…何だか、変なツマジロだね。」
「変って…?」
「変なの。」

そこで、初めて写真を見せました。

「あらっ!! これがマスダオコゼだよ。ちゃんと撮ってるじゃんっ!」
「え!? でも、これ白いよ!」
「白くてもマスダオコゼだよ!」
「ブログのマスダオコゼは茶色だったじゃんっ!」

どうやら、誰も見なかった数日間のうちに、茶色かったマスダオコゼが白くなっちゃったらしいです。

だから私が見つけたのは、白くなったばかりのマスダオコゼと普通のツマジロオコゼ、見つけられなかったのはツマジロオコゼのアルビノの方だったのでした。マスダオコゼ=茶色、白=ツマジロオコゼのアルビノだと決め付けて探していたので、とんだ勘違いをしてしまったのです。

それにしても、こういう場合、このマスダオコゼはアルビノとは言わないわよね? どうなのかしら??

後日、同じ場所にもう一度見に行ったら、今度はちゃんとツマジロオコゼのアルビノが見つかりました。こうやって見ると、同じ白でも、全然違いますね。とほほほほ。

しかし、前回これが見つからなかったのは、まさかコヤツも常時白いままでいるわけではなく、茶色くなっていたのかも!?

と、思っていたら、突然茶色のツマジロオコゼが現れて、ファインダー内に乱入してきました。自分はちゃんとここにいるぞーって自己主張? マスダオコゼが下敷きになってしまいました。

ま、なんでも思い込みは良くないってことですね。
ほっほっほ。


水谷
水谷 知世

昭和40年代生まれ
兵庫県出身

一見、負けず嫌いで男勝りというイメージだが、実は繊細な女性らしい一面を持つ、頭の回転はレグルス一番!!の頼もしい存在である。(レグルス親方・談)

伊豆諸島・八丈島

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