ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

愛の儀式

漁業が営まれている海辺の町ならどこでもそうだろうと思いますが、八丈島にはたくさんの野良猫が住んでいます。どこの家も開けっ放しなので、飼い猫も外へ出かけます。逆に野良猫の中には、毎日きちんとどこかで餌をもらっているものもいます。ですから、首輪をきちんと付けていないと、野良猫なのか飼い猫なのか、よくわかりません。

レグルスの近くの民宿にも、たくさんの猫が集まっているところがあります。飼っているわけではないそうなので、避妊も去勢もしていません。そのため、盛りがつく季節になると、宿泊客は猫の嬌声に悩まされることになります。朝、ゲストを迎えに行く時間帯にも、まるで赤ん坊が泣いているような、変な鳴き声が聞こえてくる時があります。あれれ?と思って覗いてみると、縁側の上で大きな猫を背中に乗せて、ぎゃぁぎゃぁ鳴いている猫がいます。あちゃぁ…、朝っぱらから…。気がつかないふりをして、部屋から出てきたゲストをそそくさと車へ案内し、さっさと宿をあとにします。ここで、ゲストを呼び集めて「見て、見て。猫が交尾をしていますよ! 皆でしばらく観察しましょうよ!」と言ったら、どう思われるでしょうね?

今年の6月は例年になく霧の濃い梅雨で、水温もそれほど上がらず、暗い気分に陥りやすい日が続きました。ところが、「水温が低い&透明度が悪い」海況にも関わらず、海の生き物達の活動ぶりは絶好調で、いろんな魚の放精・放卵や、卵を守る姿を見ることができました。猫の場合と違い、魚が産卵している姿は、皆を呼び集めてワクワクしながら眺めています。一体、この違いは何なのでしょう…。我ながら、ちょっと不思議。

特に最近では、いろいろなスズメダイ達の出産に立ち会うことができました。コガネスズメダイ、キホシスズメダイ、セダカスズメダイ、ミツボシクロスズメダイ、シロホシスズメダイなどの産卵が見られたのですが、コガネスズメダイだけ、ちょっと他のスズメダイと違うんですよね。

どのスズメダイも、雄が卵を産み付ける場所(産卵床・岩の側面であることが多いです)を守っていて、体を白っぽく変えて雌を誘います。魚のくせに目つきまで変わっていて、瞳孔がいつもより開いてるって感じ。こんなに顔色変えてせまられたら、私だったら怖くて逃げ出しちゃうわよって思うのですが(そんな経験は無いけど…)、魚の場合はついふらふらっとよろめいちゃうらしいです。「あぁ、何だかとっても産みたくなってきちゃったわぁ」てな感じで産卵床に吸い寄せられていき、岩の側面にお腹を押し付けるようにしながらクルクル回ります。雄は必死に雌に寄り添い、一緒にクルクル回ります。

これがまあ、よく見られるスズメダイ達の愛の儀式ですね。産み付けられた受精卵は雄が体を張って守ります。コガネスズメダイも、だいたい似たようなものなんですが、合間に軽いキスをします。これが、ちょっとステキなんです。

この写真は、雄が雌のお腹にちょんちょんとキスしているところ。産卵の直前に雄が雌のお腹をツンツンするのは、キンチャクダイの仲間にも見られる仕草です。でもキンチャクダイの仲間はツンツンした直後、瞬時に放精・放卵してオシマイ。コガネスズメダイの場合は、産卵の合間に何度もキスをします。しかも、交代するんです。

これが交代して、雌が雄のお腹にキスをしているところ。 一緒に卵を産み付けたり、交代でキスをしたり…。うーん、コガネスズメダイって、スズメダイの中で、一番官能的かも! 放精・放卵している時間も長く、しばらく見ているとキスのタイミングもわかってきそうな感じがします。

彼らの子供達の姿が海にあふれ出すのは、いつ頃かな?
そしたら、また皆を呼び集めなくっちゃ。


水谷
水谷 知世

昭和40年代生まれ
兵庫県出身

一見、負けず嫌いで男勝りというイメージだが、実は繊細な女性らしい一面を持つ、頭の回転はレグルス一番!!の頼もしい存在である。(レグルス親方・談)

伊豆諸島・八丈島

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