期間限定 スペシャルトーク 豪海倶楽部  

エビ・カニインサイドストーリーから続く海の事色々! 第32回

生き抜いた珊瑚礁

「十年一昔」とは、よく言ったもので、1998年の世界的な高水温の影響によるサンゴの白化現象以前の久米島の本当のサンゴ礁の美しさを知っている人は、他のダイビングサービスの面々を見渡してみても十人に満たない。エスティバンの歴代のスタッフの中でも横山大介君までで、それ以降のスタッフ達はサンゴの白化現象以降の悲惨な状態から、現在に至る再生状況しか知らず、それ以降から、何故、僕がダイビングスタイルを変更したのかを語って聞かせる事が度々ありました。

「いいか、昔はサンゴがどこにでもあっただろ!でも、今はこういう状態だから、いかに魚や他の生物の美しさや珍しさ、生態を見せるような演出を考えてガイドしなければいけない!」などど、簡単に説明しようとすると、「そんな事を言われても、以前の久米島のサンゴ礁の美しさを知らない僕には解りません。」などど主張され、再度、得々と説明したのを思い出す。

9月の終わりに、海人の友人から連絡をもらった。「剛志兄ぃ、スーハヤ(瀬の連なる場所名、ポイント名)の先のイノー(内湾)に花びらみたいなサンゴがたくさんあるとこ見つけたよ!!写真撮ったら綺麗なはずよ!!」。忙しい時には、ダイビングボートもお願いしている傍ら、ダイビングポイントになりそうな所を見つけると教えてくれる。海人が漁の為に潜る場所はダイビングポイントとは少し赴きが違うのだが、僕等があまり潜らない場所なので、時折、意外な発見があるのです。お互いの都合を合わせて、早速行ってみた。

ボートを操船して、瀬渡りを繰り返しポイントに着ける日常を送ってないと、とても辿り着けそうもない、慣れてない人には解りづらい場所にそのイノーはあった。

透明度のあまり良くない中、海中を進んで行くと、水面近くから水深8mの砂地まで辺り一面に広がるオオリュウキュウキッカサンゴが群生してた。98年以降に着床したものではなく、高水温にも耐え、もともとそこに棲息していた彼等の雄姿は、何処にでも辺り一面、当たり前に棲息していたサンゴ礁がゲレンデの雪景色のように変わり、死んでいく様子をまざまざと記憶している僕にとって、ただただ大自然の荘厳さを感じさせた。そして、潮が引けば、水中から出てくる場所に、水流やうねりに侵食されてもなお、過去はどれほど雄大な景色だったかを想像させる一個体一個体がとても大きなサンゴ礁の瓦礫がリーフに根付いてた。

ベジタブルフィールドと言うポイントがあります。リュウキュウキッカが物凄く群生し、ミドリイシ系のサンゴの種類も豊富でした。通常のサンゴのポイントだと綺麗だけど、景色の変化があまりない所が多いように思われるのですが、そのポイントには多面的な顔があり、18年前にリサーチした時のその感動は今でも忘れません。後にも先にも、サンゴのポイントであれほどの感動を味わった事はありませんでした。しかし、98年の白化の被害で変わってしまい、今はその再生を待つばかりです。

命を繋ぐもの、命を手放してしまうもの、それぞれの瞬間の生き様があります。何がそれを分けるのでしょうか?同じ種類の生物でも強いものと弱いものがいるように、健康なものと病んだものがいるように、でも、それだけではなくなった、人が介入してしまった自然環境の中で、少しでも未来に命を繋いで欲しいものだと改めて思います。

久米島の海も、寝場所や食べ物が少なくって減ってしまった生物達が、珊瑚の再生に伴い至る所で増えつつあります。ナンヨウブダイやイロブダイなど、一つの場所で、以前なら5群れ、6群れが当たり前にいたような生き物たちが、2群れに減り、1群れに減り、あまり見なくなって、そして現在少しずつ戻りつつあります。主張したり啓蒙したり、見守る事ぐらいしか出来ないかもしれませんが、1つの海で見続け伝える事も、過去やいま(現在)を知る僕等には大事な役目なのでしょう。自分達で何か出来る事をやっていく事はもちろん重要な事ですが、毎日潜って、ともすれば、「現在の景色が当たり前」という感覚の麻痺に陥りがちな僕等ガイドダイバーも含めて、まず、感じる事が大事な事だと思います。そう想う気持ちが願いや望みに変わり行動していくのかもしれないですし。

僕等ガイドダイバーもそうだし、ゲストのダイバーの方々もそうでしょうが、海人も皆、海に癒されてるのです。例え、夜潜って獲物を獲っていても、目の前に見える景色の変化を敏感に感じているのです。そして、皆が想う気持ちはいつも同じなのです。

「球美の海のサンゴ達、頑張れ!!」

98年の白化現象以前の長い年月を久米島で過ごし、悲惨な状況を受け入れてきた者達だからこそ、感じるものも沢山あります。それをいつまでも大事に心に抱えながら、今日も海に出よう。

(余談)

一緒に酒を酌み交わす仲であれば、十歳も上の海人の先輩からも、朝、せり市場の前や、夜飲んでる席などで情報を教えてもらえる。「剛志、昨夜、あの辺に潜ったら、こんなサンゴがたくさんあってびっくりしたよ!今度行ってみてポイントにしたらいいさ!」や「ダイビングポイントのシチューガマもウーマガイもトンバラザシもサンゴが凄く綺麗になったなー!でも、そこから東に行ったらもっと凄い所があったぞ!!」的な感じで。この光景を見て、僕自身も驚いきましたが、エキジットして、過去のサンゴのあらましを交えながら、感想を捲くし立てる僕に海人の友人も、もっと驚いてました(笑)。嬉しそうに感想を聞いてくれる友に、ただただ感謝でした。。ローカルとの繋がりは、相手によってはひりひりするようなものもあります。でも、そういう山を幾つも越えながら繋がりが熟成されていくのです。


外海に面した場所にあるベジタブルフィールドのサンゴ礁。さまざまなサンゴが群生していた。

川本
川本 剛志

1965年4月3日生まれ
福岡県出身

ガイド会所属

久米島でダイビングサービスを営むかたわら、ライフワークである、冬に訪れるザトウクジラや各種の魚類、サンゴ、ウミウシ、甲殻類の生態を写真に収め続けている。多数の図鑑雑誌に写真を提供し、エビ・カニガイドブック2-沖縄・久米島の海から-等の著作を持つ。

沖縄・久米島

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川本氏へメールで申し込めば、代金先払い&送料着払いで送ってもらえるそうです。サインが欲しければこっちだね!(笑)
BY 編集部