ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

普通種ウォッチングの勧め(6)

僕がダイビングを始める前、自然保護協会の自然観察指導員の講習会なるものに参加したことがあった。その講習では繰り返し、「生き物の名前を知ることはたいして重要ではない」という事が説かれた。自然観察の目的はその生き物の名前を知り覚えることではなくて、そこから先の"観察"にあるから。。。との事だった。

当時の僕は「自然観察の指導員たる者が自分のフィールドに分布する普通の生き物の名前ぐらい知っておかなきゃダメでしょ〜!」とか「名前を知りたがっている方の知的欲求を無理やり抑えつけてどうするの。。。」とか思い、その教えに疑問を感じていた。(あとで思ったのだが、これは観察会の参加者に対して説くべき事であって、決して指導員も生き物の名前を知らなくてもいいよ〜♪と言っているわけではないのだと思うけど。。。)

しかし海の生き物のことを知るにつれて、だんだん僕も同様のことを実感する事が多くなってきた。

浅い水域にセダカスズメダイという地味ぃ〜な魚がいる。ところが同様の環境に、このスズメダイと良く似た種類が何種か共存していることが、一部のマニア(笑)の間で話題になった。フチドリスズメダイ、アイスズメダイ、アイランドグレゴリー(英名)といった魚なのだが、確かに成魚なんかは互いによく似ていて識別にかなり悩む。

屋久島でも色や体型、生息環境や産卵形態の違い、相互の干渉具合なんかを観察しながら、自分なりに4種類が見られることを確認した。それらは前記の4種にそれぞれ該当するのかどうかは分らない。同じ種類の魚を違う種類の魚だと勘違いしているかもしれないし、逆もありうる。ひとまず名前は特定できないけど、取りあえずそれぞれを種類の違う魚として認識したわけだ。あとはそれぞれの名前を調べればいい。。。

で、僕はひとまずそれぞれの種類(というか個体群)を仮にAスズメダイ、Bスズメダイ、Cスズメダイ、Dスズメダイと名付けた。


セダカスズメダイならぬ、“Aスズメダイ”(笑)

ところが一貫してそのスズメダイが何という名前なのか?という事には、なぜか興味が湧かない。ひとまず4種類がいて、仮にA〜Dスズメダイに分けた事で満足してしまったのだ。(笑)識別ができてしまうと、今さら名前を知りたいとも思えず。。。むしろ、名前が分ってしまうのがつまらない。

観察を通して「これとこれは違う種類、これとこれは同じ種類」と分るのが楽しくて、未だにこれらのスズメダイの識別は続いている。「やっぱりAスズメダイとDスズメダイは同種かな?」とか、「あれっ??何だ?このBスズメダイは。。。5種目のEスズメダイか?」ってな具合に。。。(笑)

ただ分りやすい名前がないと、他人とその魚について話せないのがやっかいだ。さらに僕はガイドなだけに、ゲストにその魚を紹介せねばならない。Aスズメダイでは何がなんだか分らない。。。(笑)


原崎
原崎 森(しげる)

1970年8月26日生まれ
山梨県出身

八丈島から屋久島へ。。。
巨木と苔の深〜い森を抱える島で、あえて海に潜る。

鹿児島県・屋久島

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