南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

水温低下とサメ

日本は寒いみたい。毎日NHKのニュースで流れてくるのは「寒波」の話。へぇー、なんて思いながら見ていたけど、よくよく考えるとパラオも最近天気が悪い。悪いと言うか悪すぎ。この原稿を書いている1月と言ったらパラオは乾季のはずで、雨なんてスコールがザッと降るくらい。でも今年は数日間雨が降り続くなんてザラ。今、まさに外は大雨状態なのである。パラオは日本の真南に位置している。きっと何かしらの関係はあるのだろう。それにしても困ったものだ。

さて、本来乾季であるはずのパラオ・ペリリューはこの時期水温が下がり28度である。とても寒い。28度でとても寒いなんていうと「とんでもない!」と言われそうだが、普段30〜31℃台の水温で潜っている僕らはこの水温は寒く感じてしまう。水温の1度は体感温度の約4度に相当すると聞いたことがある。水温が3度下がると換算で体感12度も温度が下がるように感じることになる。そりゃ寒いわけだ。パラオのガイドなんて皆ぺらっぺらのスーツを着ているものだからこの数度の違いは相当にキツイのだ。

しかしこの水温の低下は外洋、そして深めの魚がリーフに近寄って来る絶好の条件でもあり、この年末年始、僕はこの水温のお陰でかなりいい思いをした。クリスマスからこの原稿を書いている今、1月20日までで見た大物のダイジェストはマカジキ23本。6mのジンベエザメやら4mのニタリとの接近遭遇。オキゴンドウとユメゴンドウの群れとスノーケリングしていたら3.5mのツマジロやクロトガリザメについて来るハプニング。特大カマスサワラや、惚れ惚れするような大きさのタマカイとの遭遇と、さらにはメーターオーバークラスのロウニンアジ200匹以上の群れに囲まれたり。とにかく普通のパラオのガイド君1年分くらいの“良い思い”をここ一ヶ月くらいでみんな見てしまった気がする。いやー凄い、凄すぎる。恐るべしペリリューの海。


時にダイバーに強い興味を示すしつこいツマジロ

そのペリリューの海で特筆すべき魚はサメ類だろう。

その種類、個体数はブルーコーナーのあるゲメリスエリアの比ではないと思う。彼らとの遭遇回数が個体数の多さを物語っている。パラオに生息するサメは一体何種類なのか正確には分らないが、僕が今までパラオで遭遇したサメは数えてみたら14種類あった。

(1)オグロメジロザメ
(2)ネムリブカ
(3)ツマグロ
(4)トラフザメ
(5)ツマジロ
(6)オオテンジクザメ
(7)イタチザメ
(8)クロトガリザメ
(9)ガラパゴスザメ
(10)ヒラシュモクザメ
(11)ニタリ
(12)ジンベエザメ
(13)アオザメ
(14)ヨシキリザメ

比較的頻繁に見られるサメは(1)〜(3)で、通常のダイブサイトで見ることが可能だ。狙えばおおよそ見られる。(4)〜(6)は前記の3種よりも遭遇率は低いが狙えないこともない。(7)〜(10)は滅多に見られないが今まで複数回見たことのある種。生息海域が沿岸なのでダイバーの目撃率が高くなるのだろうと思われる。そして(11)〜(14)は僕の人生において一度しか見たことのない種である。ちなみに(13)のアオザメ、(14)のヨシキリザメはどちらもブルーウォーターダイブ中に遭遇したものだ。これらの種は外洋に生息するからきっとダイバーと遭遇する機会が著しく少ないのだろう。


世界3大危険なサメの一種と言われるオオメジロザメ

基本的にサメは安全だと言われている。しかし中には危険性のあるサメもいる。パラオのガイドの中にはフィンを噛まれた経験を持つ人もいる。狂乱索餌の状態になるととても危険だと本にも書いてあるし、その経験をしたガイドもその時はサメ達が狂乱気味だったと話してくれた。そういう経験はまだ僕はしたことは無いが、一概に安全とは言い切れないようだ。

特に大型のサメにアプローチするときには十分注意が必要で、僕は見知らぬサメに出会ったら絶対目を離さないようにしている。これはパラオの漁師に教わった方法なのだが、彼らはスピア漁をしているときに良くサメに獲物を狙われる。その時にサメから目を離すととたんに獲物だけを横取りされてしまうのだそうだ。サメはとても頭が良く、餌だけサッと取っていってしまう。しかし、その時に抵抗すると指や腕を持っていかれることになってしまうそうだ。ところが、目を離さないでいるとサメ達は餌を取りに来ない。目が威嚇になると漁師は言うのだ。

良く考えてみたら、いままでサメと遭遇しているとき僕はいつも目を合わせていた。だから彼らは僕を警戒し、必要以上の接近をしてこなかったのだろうか。この海で警戒心のなきものは自らの命を危険にさらす。サメ達もまたそれを本能で知っているのだろう。僕がいままでサメに関して危険な状態になった事がないのは運だけではなかったのか。

それにしても、サメという魚はつくづくシルエットの綺麗な魚だと思う。かなり潮の速いときでも中層でホバーリングするような姿勢で一所に留まることの出来るその体は、よく飛行機の機体になぞらえられる。頭の方が太く後ろに向って細くなるその体形はまさに流線型の戦闘機だ。流れのある日にドロップオフの縁から眺める彼らの姿は素直にカッコいいの一言に尽きる。

海中食物連鎖の頂点に君臨しているサメ達との遭遇。その瞬間その場所にいた者にしか分らない興奮がある。山ほどの期待と少しだけの緊張。さて、明日は一体どんなサメ達との遭遇があるのか。楽しみでならない。


秋野
秋野 大

1970年10月22日生まれ
伊豆大島出身

カメラ好きで写真を撮るのはもっと好き。でもその写真を整理するのは大キライ。「データ」が大好物でいろんなコトをすぐに分析したがる「分析フェチ」。ブダイ以外の魚はだいたいイケルが、とりわけ3cm以下の魚には激しい興奮を示し、外洋性一発系の魚に果てしないロマンを感じるらしい。日本酒より焼酎。肉より魚。果物は嫌い。苦手なのは甘い物。

ミクロネシア・パラオ

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