南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

Backyard Story of LUKES

今年の11月末から12月半ばまでルーカスという隠れ根に潜りに行くツアーを開催することになりました。DayDreamのHPには書けなかったバックヤード・ストーリーを書きます。

LUKES(ルーカス)と呼ばれるところがパラオにはある。パラオ歴代の名ガイドたちもそうそう潜ったことの無いこの場所、反赤道海流の足元につい最近潜るチャンスがあった。

ルーカスとは北緯6度56分、東経134度12分に存在する幻のダイビングスポット。僕らが居るコロール島から南西に約50km行ったペリリュー島とアンガウル島の間に位置するその場所は、全長約2.5kmの「隠れ根」のことだ。南西から北東に走るその根は一番浅いところは18m、周りはすぐに300mまで落込む。その地形は魚たちにとって、まさに大洋のオアシスとなるべく多くのリーフフィッシュと、それを狙いにくる大型回遊魚のオアシスとなっているようだった。しかし、この場所は滅茶苦茶に流れる場所でもあり、また大型のいわゆる危険なサメ類も多くいるので敬遠され、今までほとんど誰も潜らなかったわけだ。

さて、話は今年の2月までさかのぼらなくてはならない。今年の春にオーバーナイトのツアーで北のカヤンゲルという島に1泊ダイビングツアーを6本組んだ。その時に、南のルーカスを秋に潜る計画はすでに出来ていた。カヤンゲルは僕の潜水経験があったのでツアーを作るにあたって特に問題になることは無かったが、ルーカスは無い。地元のダイバー達ですら今までほとんど誰も潜っていない状態で、潜ったことのある人でも10年前に1回だけだったりして全然情報にならない。話を聞けば聞くほど先人たちの言っていることは記憶とイメージの間で現実味のない“思い出”になってしまっていた。

情報が足りない。魚の情報、ポイントや地形、危険な対象、月齢、潮汐と流れの関係等全ての情報が不足している。「あの場所で、本当に全員の安全を確保できるのか?」という一抹の疑問が僕の頭から離れない。

情報が無ければ自分達で集めるしかない。でもポイントリサーチと呼ばれる開発を行うにはウチの12名のスタッフを全員使って一斉に潜らなくてはならない。僕は、彼らの安全を確信してGOサインを出せるのだろうか?安全だから潜って来いって言えるのか?

DayDreamのスタッフにモーイというパラオ人がいる。彼はペリリュー島出身で、彼が地元の人たちに「今度DayDreamはルーカスに潜りに行くぜ」と言ったら「お前達はクレイジーだ」と言われたそうだ。なんでも、あそこに釣りに行くと上がるのは最初の3匹までで、その後上がってくる魚は頭しか残ってないそうだ。引き上げの途中でサメに横取りされてしまうからだ。中には運良く上げきれることもあるそうだが、その時追いかけてくるサメの背びれが水面から出ると、高さが60cmも、70cmもあるそうだ。 ・・・ということは水面下にある体は4mも5mもあるってことか・・・。

「なるほど・・・確かに、俺達クレイジーかもしれない・・・」

安全のための、特にサメ対策の情報が必要だ。そう感じた。パラオに倉田先生という生物を研究している博士がいる。もう“おじいちゃん”なのだが、その知識は僕らの及ぶところではなく僕もことある度に先生のところを尋ねていろいろ勉強させてもらっている。今回も先生の知識を分けてもらおう。ついでに、モーイにもペリリューに戻っていろいろ調べてきてもらった。地元の漁師に聞いてもらって、現地の人たちのサメ対応方法を元に僕らなりの対策を3案立てた。

さらに漁師さんの話をまとめてみると、いわゆる大型のサメは僕らが潜る水深よりももっとずっと深いところを泳いでいて実際普通にダイビングをしている僕らとは出会うことはほとんど無いはずだという事も分かった。もちろん、魚や動物の血を流しながら泳ぐような彼らを呼び寄せるような行為をしなければ大丈夫だというわけだ。ペリリュー島の人たちはルーカスでスピアフィッシングや釣りをするので、その手のサメがその漁獲された魚を追って浅瀬に上がって来るのだ。

出発前日の最終ミーティングで女性スタッフに生理でないことを確認する。過去にハワイで生理の女性にサメが反応するという事例があった事の報告を受けたことがある。明日潜りに行く場所が普通のブルーコーナーなら問題無いが、そうじゃない。何が起こるか分からない場所だ。かわいそうな気もしたが聞かなければならないし、そのスタッフは明日のダイビングからは外れてもらわなくてはならない。どのくらいのリスクがあるか想像できないからだ。1名のために全員を危険にさらす訳にはいかない。

さぁ、出発前にできるだけのことはやった。集められる情報、予測できるトラブル、それに対応する対策。サメを刺激するようなことを何もしない僕らが攻撃を受ける理由が見当たらない。さらにサメの習性上、すぐに襲ってくることはない。しばらく品定めしてからアタックと呼ばれる餌として成り立つかどうかの確認をしてから最後に攻撃をすると言われている。僕らがこのポイントを潜るときにはダイバーの位置をボートに知らせる水面ブイを引いているのでいつもボートは30m以内にいることになっている。もし、万が一、大型のサメが下を回りだしても浮上し、ボートに上がるだけの時間は十分に確保できる。

これだけ理論と対策をもっていけばとりあえず大丈夫だろう。しかし、それでもスタッフだけで潜って危険だと判断したら・・・このツアーを企画するのは中止しよう、そう心に決めて出港した。

さて、結果はDayDreamのホームページのトピックス、9月14日「LUKES(ルーカス)」という題名でアップしてあります。

この場所、“ルーカス”は僕がずっと狙いに行きたいと思っていた「ファイナルスポット」の一つでしだ。ここに潜るまでに8年かかった。この場所の開発がパラオでの僕の最後の大仕事かもしれない。是非、成功させたいと思っています。


秋野
秋野 大

1970年10月22日生まれ
伊豆大島出身

カメラ好きで写真を撮るのはもっと好き。でもその写真を整理するのは大キライ。「データ」が大好物でいろんなコトをすぐに分析したがる「分析フェチ」。ブダイ以外の魚はだいたいイケルが、とりわけ3cm以下の魚には激しい興奮を示し、外洋性一発系の魚に果てしないロマンを感じるらしい。日本酒より焼酎。肉より魚。果物は嫌い。苦手なのは甘い物。

ミクロネシア・パラオ

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