ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

第九話 未開の地 未知の青(中後編)

明けて翌日、朝食を早々に済ませて、ランチボックスを持って海に出掛けた。桟橋は、昨日と同じ顔ぶれで、何となく...漁の成果を期待されているのでは?と思わせるような熱い(笑)視線が注がれていた。

ボートキャプテンは、テンションが高く「何処に行く?」と無茶な質問をしてくる。「一番良いポイントへ連れて行ってくれよ」と言うと、今日はその準備をしていない...みたいな事を言っている。何でも、彼の言うベストポイントは、かなり遠い場所で燃料をポリタンで何本か持って行かないと帰って来れないと言う。

「じゃあ、帰って来れる範囲で、ヨロシク!」

船は、モヨ島の際を通って東へ向かった。途中、気になる場所があったので、何度か止まって、スキンダイビングでチェックし、その内1度はスクーバで潜ってみたが、あまり楽しそうな場所ではなかった。キャプテンの言う目的の場所は、どうやら隠れ根らしく、船は浅瀬のパッチリーフに投錨した。バックロールでエントリーして、目の前の泡が消え去った瞬間、今日は1日ここで過ごしても良いと思ったほどだった。

コモンサンゴのパッチリーフが水深8m程度の白い砂地に点在し、そのサンゴにはアカネハナゴイやハナゴイ、メラネシアンがエアーの吐き出し音に合わせて躍動している。しかも、半端な数ではない。当時、デジカメの合成パノラマとかがあれば、間違いなくやっているような、屏風絵にしたいような景色が広がっていた。尾形光琳が見たら、きっと素晴らしい作品を残していただろう。

ガレ場に目を向ければ、ジョーフィッシュがヒョロー、ヒョローっと、あちらこちらで全身を露にしている。砂地のスロープが急傾斜になり、その向こうには切り立ったドロップオフが見える。大体何がいるかは、この時点で想像ができてしまう。アプローチした水深が、浅かったのか?斜面の砂地に、思った魚が見えない。環境差によるものだろうか?軌道を修正してみたが、一向に目に映らない。お、おかしい...。

暫く考えて、ハタと気がついた。ガイド的には「御法度」のカブセをやってしまったようだ。状況にもよるんですが、生物に対するアプローチには3原則があって「潮上」、「上から」、「順光」寄りは、相手が嫌がるので基本的に、やってはイケない。この場合、僕は斜面の上から、砂地の生物に対して覆いかぶさるような形になってしまった。暫く、距離と時間をおいて、探すと「あっけないほど」沢山いた。

「ここは、使える!」

本当は、もっと楽しみたいんだけど、ポイント数を稼がなければならないので、そんなに長居もできない。この根の反対側に船を回し、そちらも潜る。ダイナマイトフィッシングの毒牙に掛かっているようなガレ場だった。昼食は、このままここにアンカーを打って、食べると思ったら、近くに漁村があるから、そこの入り江というか、海岸に上陸して食べることになった。

それなりに腕の良い漁師が揃っているのだろぅ?海にせり出した、半水上コテージのような各々に家も立派だし、子供たちの数も多い。見知らぬ船が海岸に近づくと、素っ裸の子供が何人か乗った丸木舟が寄って来た。警戒されている訳ではなくて、好奇心からのようだった。サテやナシゴレンの入ったランチボックスを食べていると、丸木舟の子供たちが、次々に海に飛び込んで遊んで知る風景が目の前で繰り広げれてる。

あと数日、このシーンが遅かったら、僕はカメラを手にしていなかっただろう。それほど当たり前で、多分自分も同じようなことを小学生の頃、三保の海でしていたハズだった。習慣なのか、この光景を特別のものと感じたのかは分からない。しかし、記録している以上は、何らかの心の動きが、確実にそこで起こっていたに違いない。飛び込めないで、船やヘルパーに掴まっている子供もいる。あぁ、遊びって、こうあるべき、なんだよなぁ?昂る気持ちと行為に対する恐れが共存し、結果を想像しながら手探りで繰り返し行う。そして結果を、さっきよりも今よりも、満足のゆくものに仕上げていく。

ダイビングも同じ遊びなんだ。この目線が無ければ、根本的な楽しみは創造できない。ダイビングポイントを創造するイメージが、目の前で明確な輪郭を結んだ。


鉄
鉄 多加志

1965年生まれ
清水出身

生まれ育った環境が、都市部?の港湾地域に近く、マッドな環境には滅法強く、泥地に生息する生物を中心に指標軸が組み立てられている(笑)この業界では、数少ない芸術系の大学出身で写真やビデオによって、生物の同定や生態観察を行う。

通称「視界不良の魔術師」
静岡・三保

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