ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

第七話 カリビアンブルー(前編)

子供からの夢であった、カリブに到達した。

キャプテンクックやカリブの海賊は、幼少の僕にとって「クストー」の出てくる「野生の王国」に匹敵するくらい魅惑的な存在であった。そのカリブ海に位置する「コズメル」が最初の訪問地となった。

ロスを経由して、メキシコシティでトランジットステイして、やっと辿り着いたカリブの海。ベリーズとカンクンを経て、コズメルの空港に降りた瞬間に、ワクワク感が止まらなくなっていた。薄らと聞こえるサルサの音楽やほんのりとした湿気、外国を強く意識させるパフューム、それとは別の自然な甘い香りがラテンを感じさせる。

足は地に着いていない。ラテンという1枚の薄い膜が地面に敷かれていて接地を許さない。柔らかな皮膜の上で弾む様に、心は踊り続けている。「これがカリブかぁ」自分が既に幸せに包まれてしまっていることが自然に感じられるほどウキウキしている。入国を済ませ“salida”と書かれている扉を出る。「サリダ」このラテン語には、単に「出口」と言う“Exit”の意味だけではなく、次への出発の概念が多分に含まれている。女性の転職情報誌にこんな名前の雑誌があったと思ったが、この単語は・・・女性名詞なのか? そんな事を考えながら乗り合いタクシーでホテルまで移動した。

フィエスタ・アメリカーナという名前のホテルは、メインのビーチロードによって分断された敷地で、宿泊エリアとビーチサイドエリアが別れている。それどほ交通量の多い道路ではないが、ビーチルックでアスファルトをまたぐのは違和感がある。海辺に寛ぎに行くのに、道路を慌ただしく渡るのは・・・どうもねぇ?(笑)

ホテルに入っているダイブショップに申込みをして、早速タンクだけ借りてビーチに潜ってみる。ジェティからエントリーしようとしたが、コンクリートの支柱に当たる乱流を見れば、明らかに潮の流れが速い事が分かる。これが普通なのか? 1ノット以上の流速だと思う。少し躊躇ったが、目の前に広がるカリブの海と桟橋の下に見え隠れする固有種と思われる魚達の姿に、リミッターが外れる。「ザオッ!」意を決して飛び込んだ。

案の定、一気に体がもっていかれる。何故か脳裏には「大和魂」の3文字が浮かんだ。実は、神風特攻だったのか?との一瞬の後悔は、ロックビューティの姿を認めた時にブッ飛んだ。ロックオン!速攻でファインダー内に捉え迎撃した。やっと気を取り直して、周りを落ち着いて見渡す。生物の数、色彩のバリエーション・・・目から飛び込んでくる情報が多過ぎる。的が絞れない、脳がコマンドを発せない。あるいは、多くの命令を発し過ぎてしまって、体が戸惑っているのかも知れない。

5分ほどして、やっと冷静さを取り戻し攻略法が構築された。いきなりガレ場攻撃を仕掛ける。おっ!クイーンエンジェルの幼魚だ。もちろん確信はない、けど何故かクイーンの幼魚だと認識してしまう。ペダーソンクリーナーシュリンプ、ロングボウクラブ、フォアーアイバタフライフィッシュ、予習した生物が次から次へと現れる。エアーの消費よりもフイルムの消費が圧倒的に早い。一旦フイルムチェンジのために桟橋の横から上がった。再び、水中へ。慣れたのか弱くなったのか?潮の流れを然程感じない。行動範囲は一気に広がった。

合計で1時間ほどが経過しただろうか?スノーケルのダイバーが頭上にいる。極力気にしない様に努めて、被写体に集中する。しかし、何だか様子がおかしい。僕の視界に入って来ようとしているように感じる。写真を撮って欲しいのかな?と身勝手にファインダーを向けた。どうも違う。2本目のフイルムも終わり、再びエキジットする。どうも先程のスノーケラーはサービスでポーターをやっている子だった。フイルムを換えていると、その彼が話しかけてきた。「あまり上がって来ないんで、心配だから見てこいって言われて見にいったんだ」と言う様な内容だったと思う。(苦笑)

彼に残圧を見せて、もう1回行くと告げると「マジかよぉ!」と返された。借りたタンクの半分ちょいしか使っていないんだから、いいじゃないか?と言って、三たび潜る。タンクを返す時に、スタッフに「こんな何もないところで何を撮っていたんだ?」と聞かれた。彼は完璧に呆れている。僕は、撮影した生物を時系列に挙げていった。1本目のフイルムの内容を言い終えた時、制止された。そして「明日のダイビングの時に魚の名前を教えてくれ」と言われた。(笑)ちなみに、僕の知っている英単語は、日常会話よりも水中生物の英名の方が遥かに多い。


鉄
鉄 多加志

1965年生まれ
清水出身

生まれ育った環境が、都市部?の港湾地域に近く、マッドな環境には滅法強く、泥地に生息する生物を中心に指標軸が組み立てられている(笑)この業界では、数少ない芸術系の大学出身で写真やビデオによって、生物の同定や生態観察を行う。

通称「視界不良の魔術師」
静岡・三保

ダイバーズ・プロ
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