ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

シリーズ「心に残る青の背景」

マッドダイバーズ、天女の舞降りた海に続く、第3弾です。

これを語ってしまうと、引き出しが無くなるんじゃないか?っていう恐れがありますが、一度ネタをエンプティにしてしまった方が、次のステップへ進み易いので、恐れず紐解いてみましょう。マッドダイバーズと対極を成す僕の心象風景...ブルークエストです。

第一話(前編) 始まりはOKI縄

30年前の夏に沖縄に降り立った。当時は、オッカなびっくりでビビっていたと思うのだが、記憶の中ではG.H.Q.のマッカーサーばりにタラップから降りてくる幼い自分が居る(笑)。建物の入り口の垂れ幕には「メンソーレおきなわ」と書いてあった。EXPO 75 沖縄海洋博覧会の開催に伴って、全国のダイバー150名が招集された。もちろん、僕は招集されたのではなく召集されてしまったのである。沖縄の返還を記念して開催されたこのイベントであったが、まだ2年しか経過していなかったため、通過は「¥」よりも「$」が強く、車も右側通行の左ハンドルであった。およそ、日本食と呼べる食べ物はなく、美味しくて魅惑的なアメリカンフードか、今からは想像もできないほどかけ離れた味覚の食べ物しかなかった。つまり、ここには強くて正しいアメリカが夢のように存在し、琉球という歴史と文化は2つの国によって蹂躙(じゅうりん)されていた。もちろん、当時の僕がそれを考えたのではなく、今思う自分が歴史の足跡を感じているだけの話しである。だから、かなり大人びた表現が使われるが、この時の僕は10歳であった。

泊まったのは、会場に隣接された場所に寝台車を並べたトレインホテルであった。ちゃんとしたホームがあったのを覚えている。だからかも知れないが、僕の中で沖縄に鉄道が無いということがイメージできない。毎日そこから、海に通った。人生で初めて、人工ビーチで泳いだ(笑)。もしかして、日本で一番早く人工ビーチで泳いだ小学生ではないだろうか? けど、感動はなかったですね。それよりも、空港に降りたときから、鼻の奥をくすぐる微かな甘さをともなった南の島らしい匂いと、胸の奥を撫で上げ続ける淡い期待感というか、高揚感が止まらなかった。実は、この匂いと高揚感の正体は、この後に沖縄へ来る度に、徐々に輪郭を結んでくる。しかし、ある時期を境に薄れていった。それは多分、沖縄の発展と自分の成長が原因に違いなかった。

毎日、圧倒的なOKI縄ブルーにヤラれていた。酔うと言った方が適切かもしれない。サンゴと僕の間には、何も無かった。熱帯魚と僕を結ぶ空間に水の存在を感じる事ができない。ちょっとした恐怖とパニックの後に訪れた諦めによって、僕は解放された。明らかに飛んでいる。飛んだ事はないが、これがきっとバードビュウなのだろう。何処までも潜って行けそうなオフリミットな感覚は、1分後に人間であることの疎ましさが、息苦しさを伴い具現化される。これを日に何度も繰り返す。多分、百回やったら息苦しくなくなるんじゃないか?と思った。けど、待望の100回目が訪れたが、いつもよりも慌てて潜ったので、かえって早く水面を見る事になった。何ってことはない。お百度参りでも、無理なモンは無理なんだと知った。

スクーバはチョットだけやって、あとはとり憑かれたように、スキンダイビングを繰り返していた。ニコノスの1型で写真も撮った。35mmレンズでは、ピントすら合わない。ボヤけたハナダイが僕の初めての作品だった。それだけじゃなく、FUJIのシングル8を入れたハウジングでも撮影をした。ハウジングには両翼のようなスタビライザーが付いていた。そこには、青というよりは、ハイキーのヤケに懐かしい奥行きの無い、ペッタリと張り付く様な、幻灯機で映す独特の映像が写っていた。フイルムって凄いなぁ、水の存在を無視するから、遠近感がなくなって写るんだぁ。三保に戻ってから、小学校で映写機で映し出したOKI縄の海を見た、当時のクラスメイトと一緒に言った感想である。(後編次号へ続く)


鉄
鉄 多加志

1965年生まれ
清水出身

生まれ育った環境が、都市部?の港湾地域に近く、マッドな環境には滅法強く、泥地に生息する生物を中心に指標軸が組み立てられている(笑)この業界では、数少ない芸術系の大学出身で写真やビデオによって、生物の同定や生態観察を行う。

通称「視界不良の魔術師」
静岡・三保

ダイバーズ・プロ
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Tel:0543-34-0988

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