沖縄周遊見聞録 豪海倶楽部  

第3回 オガンとちらし寿司

何となく筆が進まない日がある。締切りも迫っているし、そんなことも言っていられない。無理して原稿に向かって書き始めようかと思ったが、キーボードを打つ指の爪が伸びていて打ちにくい。ちょっと切ってくることにしよう。

こんな感じで原稿が書けない日は何かと用事を思い出す。何かと用事を作って原稿から逃げ出す僕は良くても、そんな時に題材にされる方はたまらない。真面目に書かなくちゃな、と思いながら意味も無く冷蔵庫を開けている自分がいる。冷蔵庫の前で記憶の引き出しをアレコレ開けてみるが、窒素とビールで途切れとぎれになっている。途切れちゃっているのだから止めちゃおうかな、書くの。「書けないからこの原稿やーめた」って言ったらみんな怒るかな?やってみたいな、やっちゃおうかな、「やーめた」って。

そんなくだらない事を考えながら、今回は西表島のダイブ ラティークで潜ってきたときのことだ。朝、宿に「カナメ」が迎えに来てくれた。「よぅっ」とお互いを手短に確認する挨拶。こういうのが男同士の挨拶なんだな。いい感じで朝を演出するヤツだな。ここのオーナーである佐々木 要は僕と同い年。僕より少々背が高くて、少々いい男というところがかなり気に入らないが、一応仲良しである。ウマが合うのである。6年くらい前だったと思うが、奴が以前の会社に勤めているときに、年やポジションが近い事もあり、よく仕事について話をした。それぞれの意見をお互いの現場にフィードバックさせたりしながらやっていた。その当時からの付き合いになる。確か3年くらい前だったと思うが、独立してこのダイブラティークを作った。仲良しぃ〜、とか言っている割には実はカナメのところに来たことは無い。男の友情なんてモノはそんなもん、いやいや、そんな感じで「近すぎず、遠すぎず」がいいのだ。

今日のポイント、沖御神島(オガン)に向かう。雲が少なくて太陽が眩しい。最高のダイビングコンディション。否が応でも気持ちが盛り上がる。気持ちが盛り上がっているから話しだって盛り上がらなくちゃならない。ポイントへ向かいながら、操船中なのにカナメの横に陣取り“話しかけ攻撃”をする。昔からカナメと話をしていると僕はいつの間にか諭されてしまう。「秋野はこうこうだから、こうしなくちゃな」とか「こうなんだから、こうだろ」という感じで奴はお兄ちゃん的トークで僕に話す。それが嫌でないからこちらもフンフンと聞いている。そんなフンフントークはポイントへ着くまで小一時間続けられた。ポイントに到着して流れをスタッフがチェック。的確にスタッフにチェックする場所を指示している。ふーん、分っているんだ。

南西からの流れ1ノットほどか。12:08 EN、40min、25.2m max、15.6m ave、28.8℃のダイブデータ。実は、カナメと潜るのは初めてだった。以前から良く知っているから何となくそんな気がしないのだがそうなのだ。印象としては「自信がある」感じ。この海は任せておけ、という安心感が奴のガイドからはする。潮の読み、的確なブリーフィングが好感もてる。特にブリーフィング時に潮の流れがこうだから魚はこう居るはず、等のガイドとしての読みの部分をチラッと入れるところがニクイ。セッティングの時、「アキノー、ウエイトある?」とお兄ちゃん役が心配そうな確認。(朝もらってるよ)と思いながらも、弟役として、友人として「うーん」と適当な受け答えをしておく。奴の「沖の神ノ島・東の根」の潜り方はよく考えられているものだった。流れの読み、魚の位置、水中での移動、無駄が極力抑えられている。同じ流れを扱うガイドとして奴のガイドは「何をしたいのか」がとても良く伝わってくる「仕事」だった。

午前中のダイビングが終わるころ、小腹も空いてくる。ご自慢の手作りランチの時間だ。この日はちらし寿司とゆし豆腐の汁物。あっさりとしていてボリュームもある。お客さんが「これがあるから他のサービスには行けない」って言っていた。確かにうまい。ランチって重要なイベントだよな。旨いから腹いっぱい食べる。“お代わり”を進められるがもう入らない。希望があればカキ氷をやったり、コーヒーを落としたりといろいろやるらしい。お客さんのメンバーに合わせたもてなし方。こういうお代わりならいくらあってもいい。“かゆいとこに手が届く”とはこう言うことだろう。「オガン」と「散らし寿司」、アクティブなダイビングをした後に、ホッとするご飯。「動」と「静」・・・いや、違うな、・・・「明」と「暗」・・・これも違うな。「S」と「N」・・・。とにかく、一日を押せ押せのフォワードで押し切らないスケジュール作りが心地いい。しかし、カナメのヤツは凄いのだ。「こういった付随サービスを褒めてもらえるのは嬉しい、でもこれに甘んずることなく本分のガイドでも頑張っていかないとお客さんには飽きられるからね」なんてサラリと言ってのける。さすがお兄ちゃん役。やっぱり海は大事だよな。そうだよな。と、一人でウンウン頷いていたら、いつの間にか空になったはずの僕のお皿には“ちらし寿司”のお代わりがよそわれていた。


秋野
秋野 大

1970年10月22日生まれ
伊豆大島出身

地元の海でガイドデビュー、その後もっと熱くガイドができる海で仕事がしたい、とパラオへ。移住後、まずは魚を知るべし、と一年以上図鑑を枕にしながら毎晩眠る。自称カメラマニアで写真は好きらしいが、デジタルには全く歯が立たない。

ミクロネシア・パラオ

DayDream PALAU

P.O.Box 10046 Koror Palau
96940
Tel:680-488-3551
Fax:680-488-2199

www.daydream.to/palau
daydream@palaunet.com