ガイドのつぶやき 海辺のエッセイ 豪海倶楽部  

ダイバーのせいですか?

春から初夏の時期にかけて、八丈島ではどのポイントに潜っても見られるくらい、盛んにセダカスズメダイが産卵を始めます。

体の大きさは10cm以上、体色は黄土色、黄色、茶褐色・・・と、色彩バリエーションはあるものの、どれもこれも地味な連中です。当然、ダイバーには相手にされていません。近くで産卵していても、ダイバーを追い払おうと必死で威嚇しても、気が付いてさえもらえません。

もちろん、彼らにアイドル志向はありませんから、ダイバーに気づいてもらえなくても、そんなこと関係なく一生懸命生きています。産卵のときには興奮のため、オスは頭から背中にかけて白くなり、メスはそのオスに誘われて黄色い卵を産み付けます。

卵を産んだメスはさっさとどこかへ行ってしまいますが、オスは自分のテリトリーの中で必死に卵の世話をします。海の中には、卵が好きな魚がいっぱい。ちょっと目を離すと、いろんな魚がすぐに卵をつつきにやってきます。時々気が狂ったように激しく泳いでいる姿を見かけますが、こういう時はたいていテリトリーに入ってきた魚を追い払っているのです。

しかし、いくら追い払っても、すぐ近くの岩陰に隠れて虎視眈々と卵を狙う、こんな連中もいます。

卵が大好きなウバウオ()の仲間たち。

セダカスズメが他の魚に気を取られるのを、今か今かと待機中。

ちょっとでも他の場所へ行こうものなら、それっ!!と一斉に飛び出してきます。

卵、食べ放題!
時間制限数秒の早食い大会!

しかし、どのセダカスズメも、みんながみんな、このウバウオの仲間たちに卵を食い荒らされているわけではありません。卵の周りに1匹もウバウオが見当たらないのもいるのに、大勢で集中攻撃にあっているものもいます。

この集中攻撃にあっている不運なセダカスズメ。彼の不運の原因は、一体どこにあるのでしょうか?

1つは、産み付ける場所がある程度浅くて、それほど沖ではないこと。どうもウバウオの生息環境はセダカスズメほど広くはないので、ウバウオが住めないような場所で産卵していれば、こんな目に遭わずにすんだのです。

もう1つは、産み付ける場所のすぐ近くに、ウバウオの隠れやすそうな岩陰や亀裂があること。見つかるとすぐに追い払われてしまうウバウオには、ちょっとした隙に卵に飛びかかれるよう待機できる場所が必要なのです。

そして最後にもう1つ。

ここのところ、一番人気のナズマドに連日潜れていたので、そこであちこちの産卵場所を見て回ったのですが、このウバウオの大群に狙われていた可哀想なセダカスズメは2匹。その2匹の産卵場所は、お互いにすぐ近く。ちょうどエントリーしたダイバーが、馬の背のアーチがある場所へ向かう途中にあるのです。つまり、ナズマドの中でも最も人通りが多い場所。セダカスズメの産卵場所を見ようとするダイバーなんて私くらいなのですが、彼らはダイバーが通りかかる度に、一生懸命追い払おうと泳ぎ回っているのです。そして、その度にウバウオにはチャンスが・・・。

私が写真を撮っている間にも、だいぶ食べられちゃいました。

セダカスズメにとっては、ダイバーが来ないシケの日の方が安泰ですね。

※写真のウバウオは、八丈ではたくさん見られるのですが、和名がありません。メシマウバウオ属の1種です。


水谷
水谷 知世

昭和40年代生まれ
兵庫県出身

一見、負けず嫌いで男勝りというイメージだが、実は繊細な女性らしい一面を持つ、頭の回転はレグルス一番!!の頼もしい存在である。(レグルス親方・談)

伊豆諸島・八丈島

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