南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

食の常識

僕は食べ物に関してトンチャクが無い。ゲテモノでも何でも出されたものはとりあえず食べてみる。美味しいか、そうでないかは食べてみて自分の舌で判断するよう心がけている。都合の良い事に僕のお腹は普通の日本人より強いようで、他のスタッフがお腹をこわしても僕だけ大丈夫ということが他所に遊びに行くとよくある。

パラオにも多少ゲテモノと呼ばれる類もあるが、ここペリリューでは日本人には馴染みの深いカップヌードルの面白い食べ方がある。カップヌードルという名前はきっと誰でも日本人なら知っているだろう。そのカップヌードルにレモンを絞って、タバスコを入れて食べる。文字だけだと味が想像できないだろう。文章だと表現しにくいのだが、これがとてもオイシイ。もちろん、カップヌードルの味は日本のものとは違う。同じ商品名なのだが海外用と国内用は味を変えてあるらしい。

面白いのはその食べ方を見たお客さん達の反応。ほとんどの日本人は皆「ええ〜っ」っと言って怪訝な顔をするのだ。

でもちょっと待って。何気ないのかもしれないけど、それってとっても失礼なことじゃありません?たかがカップヌードルの食べ方なんだけど、これとて立派なパラオの食文化である。食べてみもしないで自分達のスタイルと違うからという理由だけで、まるで「ダメ」と言わんばかりに切り捨ててしまうその「ええ〜っ」。ちょっと止めた方がいいと思うよ、と同じ日本人としてアドバイスしてあげたい。それをされた時の彼らの顔を知らないでしょ?

似たような例を挙げると、フルーツバットと呼ばれるコウモリもそう。コウモリはパラオの人たちにとっては、とても大切にされる食べ物。昔、物流なんてなくて魚しか取れなかったパラオは、このコウモリが重要な動物たんぱく質だった。今は冠婚葬祭の時に出てくることが多い。どちらかというとチョット特別なお料理なのだ。だからパラオの人はこれが大好き。良く食べるしそして珍重している。でもこれを初めて見たほとんどの日本人は皆一様に気持ち悪がる。そういう背景も知らずに、ただ目の前のスープになっているコウモリをみて「ウゲー」だの「ウワー」だの言っている日本人を見ると何ともいえない気になる。君たちのほうがよほど「ウゲー」だし「ウワー」だよ、と思ってしまう。そんなに悲鳴を上げるなら頼まないほうが良かったのではないか、とレストランで隣の席からたまに思っている。

話は変わるが中国では犬やその他の四足の動物も食べるところもあると聞く。犬食べるの〜? と 言って真っ向から否定してしまう人がいる。僕も愛犬家なので犬は食べない。でも日本人が日本でやっているならともかく、他国の食文化を自分達の“ものさし”だけで否定する事はいかがなものか?と思うのだ。

こういう食べ物のことを考えるとき、いつも逆の立場で考える。日本は実にさまざまな物を食べる国だと思う。外国から見たらゲテモノに見える食べ物もたくさんあるだろう。例えばクジラ。クジラ類を食べる事は欧米諸国からかなり強く叩かれているのは周知の事実。でも食べた事ある人も多いかと思う。正直に言うと大島育ちの僕はイルカだって食べた事がある。こういった海獣類は伊豆の漁師たちの間では何百年も食べている当たり前で普通の食べ物だったのだ。伊豆の漁師たちからすると「外国は何であんなに騒いでいるのだ?」と思っているのではないかなぁ。

ところで僕の一番好きな肉は豚肉。でもイスラムを信仰している人は豚を食べない。彼らからすれば、豚を食べる事は信じられないことでイスラムの友人から見ると僕は“狂っている”人に見えるらしい。豚肉を食べる狂った日本人。狂った日本人は海苔も食べる。イギリス人の友人からは「日本人、韓国人は海草食ってる」って言われたこともある。どうだ、悪いか?という気持ちになる。別に君らに迷惑はかけていない。納豆だって、刺身だって、梅干だって、味噌汁だって、寿司だってスキヤキだってある。その他さまざまな日本の食べ物は自信を持って他国の人たちへ自慢できる食べ物だと思っている。

きっとそれぞれの国の人が、自国の食べ物に対してそういうプライドを持っているのだろう。昔1年間だけ勤めた外資系ダイブショップにアメリカ人のバートというマネージャーがいた。彼はどこに行っても、どんな食べ物を出されても試した。けして彼が節操無しの大喰らいだったわけではない。ただ彼はどの国においても食べ物はその国の文化、そしてプライドであると知っていたようだ。だからなのか分らないが、いろんな国の人が彼に協力を惜しまなかった。そうして彼は数々のプロジェクトを成功させていった。カッコ良かった。僕の尊敬できるマネージャーの一人だ。

そして今。僕は訪れる国々で手っ取り早くコミュニケーションを取る方法として、その国の人たちと一緒にその国の食べ物にチャレンジすることにしている。バートから教わった「その国の食を知るは文化を知る」ということ。「その国に対する敬意」という言葉に置き換えることができるかもしれない。その経験は現在、様々な国籍のメンバーと一緒に仕事をしていく僕にとって貴重な財産となっている。普段、自分達が食べている食べ物を一緒に食べる外国から来た友人。もし、僕が迎える側だったら嬉しい。

ダラダラと書いてしまったが、トドのつまり言いたい事は自分達だけの“ものさし”で計り、いままで出合ったことの無い食べ物をその当地で否定することはどうかと思うわけです。食べられないなら、ダメならダメでいい。でも提供されたらチャレンジするくらいの気概をみせてほしい。僕達が来ているのは日本ではないのですから、日本人の常識をその国に持ち込んではいけないと強く思う。だって僕らは訪問者なのだ。

外国を訪れるときにその国の常識にチャレンジしてみる。これこそ本当の海外旅行だと思うんですけどね。


秋野
秋野 大

1970年10月22日生まれ
伊豆大島出身

カメラ好きで写真を撮るのはもっと好き。でもその写真を整理するのは大キライ。「データ」が大好物でいろんなコトをすぐに分析したがる「分析フェチ」。ブダイ以外の魚はだいたいイケルが、とりわけ3cm以下の魚には激しい興奮を示し、外洋性一発系の魚に果てしないロマンを感じるらしい。日本酒より焼酎。肉より魚。果物は嫌い。苦手なのは甘い物。

ミクロネシア・パラオ

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