南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

ペリリューの海に向き合って

昨年11月からパラオの南に位置するペリリュー島に滞在することになった。住み慣れたコロール島を離れ、この島に来た理由は期間限定のステーションブランチを立ち上げるためだ。

6年ほど前からであろうか、パラオの主要ダイビングサイトであるコロール州領海域と、ペリリュー州領海域はダイビングの許可証が別になり、コロールを拠点としているダイブショップはペリリュー州のポイントを使いにくくなってしまった。パラオに訪れるほとんどのダイバーの現地滞在日数は3〜4日。本数にするとおよそ9〜14本ほど。有名なブルーコーナーのあるコロール州エリアのダイブサイトが多いので、おのずとペリリュー州海域に潜る回数は少なくなる。ほんの数ダイブの為にわざわざペリリュー州の許可証を買いたくないというお客さんと、ペリリュー州で潜りたいというお客さんのリクエストの狭間で僕らガイドは意見調整がとても大変だった。

ならば、ペリリューで潜りたい人はぺリリューでのオペレーションを使ったらいい。その為にペリリュー専門のステーションブランチを作ろうと、およそ3年がけの計画だった。

ペリリュー島はパラオの首都のあるコロールから南におよそ50kmのところにある。第2次大戦の激戦地となった場所としても有名だ。そういう時代背景があるからかは分らないが、この島には特別な力が宿っているような気がしてならない。60年経った現在、未だにあちこちに戦争の残骸や爪跡を残しているが、島の生活はいたって平穏なものだ。初めてパラオに来たとき、コロールでさえ田舎だと思っていたのに、ペリリュー島に住んでみると、そのコロールでさえ都会に感じてしまう。

とにかく何もない。宿は4件。全ての部屋の総数は22部屋。満室になったとしても44人しかこの島には滞在できない。レストランと呼べるところは1件あるだけで、夜に遊びに行けるようなところはどこにも無い。商店は何件かあるが、置いてある物は缶詰と飲み物、そして簡単な生活用品のみ。ショッピングを楽しむなんてことは当然ながらない。

そんな何も無い島なのだが、僕はこの島の時間の過ぎ方がたまらなく好きだ。こういうのをなんて表現したらいいのか、自分の語録の無さが情けなくなってくるが、ベタな言い方をすると「すべてがのんびりとしていて、すべてが“その日暮らし”的なリラックスムード」なのだ。でもそのダラッとしたようなのんびり感が人の気持ちを解きほぐして素直にしてくれる。そんな感じなのだ。特に朝と夕方の光の感じがとてもいい。南国と言うと強烈な太陽光をイメージする。もちろん日中は強烈だか、朝と夕方は光がとても優しい。この時間は僕のお気に入りの時間だ。

そう言えば、ここは独特の匂いがある。花の香りがいつもしているのだ。港に入ってくるといつもその香りがする。花の匂いのする島。そんな島でじっくりと海に向かってみる。

ここの海はガイドとして申し分ないステージだと思う。しかしその反面とても難しい場所だとも思う。もちろん、どんな海でも簡単な海などは無いが、ここだけは勝手が少し違う。ミスが許されない。こんな書きかたしていいのか分らないが、一つのミスで大きな事故につながる可能性がある場所だ。ガイドとして絶対に読み違いをしてはならない。

もちろん、読み違えてしまう結果はそういうものばかりではない。最高のダイビングになるはずが、まったく面白くないものになってしまうこともある。月齢だけでなく、潮汐や潮の速さ、そして風向きと強ささえも気にしなくてはならない。どれか一つでも読み違えるだけで、目当ての魚や群れはどこかへ行ってしまうのだ。全ての条件が揃って、それを読んで初めて安全で、面白いダイビングができると思っている。

「読みきる」なんて言うと少々おこがましいが、読む努力を怠らない姿勢がこの場所で少しでもいいダイビングを提供するための最低限の要素のような気がしてならない。ここに常駐するガイドになって、最近はまたログをつけるようになった。データが全てだとは思わないが、データは絶対にガイドを助けると思っている。ログをつけるようになって新たに分ってきたことも多くある。改めてログの面白さを感じている。

どこまで出来るかなんて分らない。でも、自分の考えうる全ての努力をしてみようと思う。今、この海と自分自身に挑戦している時が楽しくて仕方が無い。さて、明日はいったいどんな海がみられるのだろう。

期間終了まで、残り5ヶ月。
全力でこの海と向き合っていこうと思う。


秋野
秋野 大

1970年10月22日生まれ
伊豆大島出身

カメラ好きで写真を撮るのはもっと好き。でもその写真を整理するのは大キライ。「データ」が大好物でいろんなコトをすぐに分析したがる「分析フェチ」。ブダイ以外の魚はだいたいイケルが、とりわけ3cm以下の魚には激しい興奮を示し、外洋性一発系の魚に果てしないロマンを感じるらしい。日本酒より焼酎。肉より魚。果物は嫌い。苦手なのは甘い物。

ミクロネシア・パラオ

DayDream PALAU

P.O.Box 10046 Koror Palau
96940
Tel:680-488-3551
Fax:680-488-2199

www.daydream.to/palau
akino@daydream.to