南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

パラオの海から


やった! ・・・かな?
と、思っている。

パラオの東側でとうとうマンタのステーションらしき根を見つけたようなのです。今のところ10回潜って10回とも見れているので100%です。100%ですよ。ひゃくパーセント。東側でこれだけ高確率のマンタステーションは初です。もしこのままこの場所にマンタが定着するなら新しいポイントとして確立です。

ポイント名は 「シークレット・スタジアム」

ダイバーは手前のスロープから奥のステーションの岩を見下ろすスタイルになるこの場所。まるで観客席から球場を見ているようなイメージからこの名前になりました。もちろん、まだ隠している場所なので頭にシークレットと付けました。今のところマンタ2枚が最少、最多6枚が記録です。

思い起こせばこういったポイント開発には、今までいくつもの因縁がありました。

現在、僕がオペレーションしているデイドリーム・パラオは、もともとオーナーの下田(現デイドリーム・グァム)から始まりました。下田は北西側のユーカクチャネルの再開発をし、日本マーケットに初めて発表した第一人者です。当時日系ショップで北西のポイントに潜りに行くショップは皆無で、唯一欧米系のサムズ・ダイブツアーズだけが潜っていました。この欧米系ショップのスタイルはドリフトで、適当な場所からエントリーして、比較的マンタに逢いやすい場所としてだけ認知されていたようでした。マップも無く、ステーションが何処にあるのかも分からない状況で、教えてくれる人は誰もいない。仕方ないので半年間で50日あまりその場所に潜り込み、ポイントとして確立したそうです。ある日、そのポイントでサムズ・ツアーズのオーナーであるサム・スコット氏とポイントで会い、下田のチームは8枚のマンタを見たときにサム氏はステーションを外し、エキジット後「このポイントは既にお前のポイントだよ」と照れ隠しに下田に言ったという話は有名です。

その後それぞれのステーションの岩に「005」と「007」と命名し、各ダイビング誌を賑わしたのを覚えてらっしゃる方もいるかもしれません。反響も大きくパラオにいらっしゃったお客さんの多くがその2つのポイントをリクエストしました。当時他店は知るわけも無く、その頃からポイント情報の強奪が始まったと聞いています。それから数年後、ある雑誌でユーカクチャネルが特集されていた記事を見ました。「ツーロック」「スリーロック」という違う呼び名で紹介され、さも自分達が開発したかのようなその紙面を見て下田は「夜も眠れないくらい悔しかった」と以前話していました。

もともと、ポイント開発に関してパラオというところはとてもオープンで日本のように漁業権もありません。基本的に何処でも潜りたいところを潜っていいんです。だから探そうと思えば幾らでも新しいポイントを見つけるチャンスはあるのです。

デイドリームの正真正銘オリジナルポイントでセント・カーディナルがあります。このポイントは雨季にあたる「南西の風が強く吹く夏場でも確実に楽しんでもらえるポイント」というテーマで探しました。浅場のサンゴがとても綺麗で、いたるところにテンジクダイの群れがあり、21種のテンジクダイを見られます。だからテンジクダイの聖域という意味でセント・カーディナルと名前をつけました。テンジクダイだけでなく、砂地にはハゼ科がゴニョゴニョ、サンゴ域にはカエルウオたち、チョウチョウウオ科、スズメダイ科が幼魚から成魚まで種も数もいます。水面近くにはタカサゴ科の群れが回っていて、マクロからワイドまで楽しめる場所でした。ここもリサーチを繰り返してブイを設置しました。「マラカル湾内にいいポイントがあるらしい」しばらくしたら他のショップがそのブイに係留して潜っていました。いつの間にやらコーラルガーデン、パラオコーラルガーデンという別名になっていました。そのうちブイが最初に僕らが設置した物から代わっていて、僕らが使おうとしたら「もうお前たちのブイじゃない」と言われたこともありました。残念なことに、こういった開発者に対して敬意を持たない輩が小数ですがいます。

もちろん大多数の人達が良識ある常識人です。ほとんどのお店はそのポイントに敬意を払って開発者が付けた名前を使います。でもホント、中にはいるんです。頃合が良さそうなタイミングで後から来て潜って、違う名前付けて「新しいポイント」ですって。ウキーーーーッッ!! そりゃ、怒りも吹き出ます。

こんなこんな事言いたくないですけど、僕らがいったい年間いくらを開発費として使っているか。どれほどのガソリンや人件費、時間、コストを使い、そして山ほど窒素を溜めて新しいポイントを開発しているかこの人達は知る由もないでしょう。無駄とも思えるダイビングを、それこそ山ほどして年間で1ポイント見つかるかどうかというのが現実。見つけたあともそれで終わりってワケではないですから、そこからポイントとして使えるレベルまで潜り込みとデータ収集をするわけです。そのような膨大な時間と労力を使って開発ってやるんですよ。

彼らはお客さんがいない時にはお休みかも知れません。でも僕らはそんな時も潜っているんです。新しい夢を探して。その夢の結果に後からズカズカと土足で入って来られたら誰だって気分は悪いと思いません?

海は誰の物でもないです。それは分かります。僕らだって「使うな」とは言いません。今までだって言ったことない。僕らはそこまで人間小さくありません。ただ先に見つけた人に敬意を払って潜ってくれないかなぁ…って寂しさを感じ得ないのです。何の努力もしないで、いいポイントだからって後から来て、名前変えて、我が物顔で潜って、雑誌連れてきて取材させて「いいポイントでしょう?」だって。そりゃ、腹も立ちますよ。

こういう人達は、そういう努力ってしないんでしょう。やらないから分からないんだろうな。どれだけ大変かっていうことを。

今まで散々嫌な思いをしてきているので、このシークレット・スタジアムだけはしばらく隠しておこうと思っています。いつま隠せるか分からないけど。このところ既に噂は広まっているようで、ここ数日他のショップのボートに追いかけられたり、留めていると近寄って来て山立てというポイントを見つける目印を取ろうとしたりするコスイ船がいくつか寄ってきています。

出来ることなら、このポイント使うなら「シークレット・スタジアム」この名前で潜ってほしいものです。人として、同じダイバーとして常識ある行動をしていただけるよう頼みたいものです。「海は誰のものでもない」ならば皆で気持ち良く、そして楽しく潜りたいものです。皆さんはどのように思われますか?

はぁ〜っ。今月は毒を吐きすぎてしまいました。失礼しました。でも、結論として言いたいことはこういうことです。

「やった! また見つけた。これから嫌な思いもしなきゃならないと思うけど、でもきっとこれからも僕らは新らしいポイントを探し続けないとならない。だって、それがこの国、この場所でガイドをやっている僕らの使命だから。」


秋野
秋野 大

1970年10月22日生まれ
伊豆大島出身

カメラ好きで写真を撮るのはもっと好き。でもその写真を整理するのは大キライ。「データ」が大好物でいろんなコトをすぐに分析したがる「分析フェチ」。ブダイ以外の魚はだいたいイケルが、とりわけ3cm以下の魚には激しい興奮を示し、外洋性一発系の魚に果てしないロマンを感じるらしい。日本酒より焼酎。肉より魚。果物は嫌い。苦手なのは甘い物。

ミクロネシア・パラオ

DayDream PALAU

P.O.Box 10046 Koror Palau
96940
Tel:680-488-3551
Fax:680-488-2199

www.daydream.to/palau
akino@daydream.to