南国通信 楽園からのらくがき 豪海倶楽部  

パラオの海から

パラオは冬の時期が乾季となり風が弱く、天気が安定します。僕らガイド屋にとって忙しい季節の始まりです。毎日の激しい仕事にスタッフの体は日増しに締まっていき、目つき顔つきが徐々に悪くなって・・・いやいやそれは冗談として、一年でもっとも良いダイビングシーズンが訪れます。

今年もシーズンインしたパラオは初っ端から飛ばしっぱなしで、ジャーマンチャネルというポイントでは“大潮回り”“上潮”“夕方”という条件をそろえると複数のマンタ(オニイトマキエイ)が一ヶ所に集まり、水面近くでグルグル泳ぎ回る捕食のシーンを見ることができます。


NIKONOS RS 13mm f5.6 1/125 RVP+1段増感 SB-105×2
1/2発光ワイドアダプター使用

何故、決まった条件の時にマンタが同じ場所で捕食をするのかちょっと考察してみましょう。マンタが捕食をはじめるには、まずプランクトンが多くないとなりません。当たり前なのですが餌がなければマンタがそこに来ることもグルグル回る必要もないわけですね。どうやらプランクトンを集めることのできる地形と潮琉の関係が大切なようです。ジャーマンチャンネルはすり鉢状の水底が沖に向かって広がっているような地形をしています。

上潮になると、深層のフランクトンを沢山含んだ水が一気にチャネルの中へ流れこんで来ます。その時にこのジャーマンチャネル独特のすり鉢状の地形が功を奏すようで、水と一緒にチャネルの中に押し込まれたプランクトンは一ヶ所へとまとめられ、そして水面へと押し上げれてしまうのだと考えています。そこに魚達が集まり、その豊富なプランクトンを我先にと食べ始める狂気の捕食ダンスがはじまるのです。


NIKONOS V 15mm f5.6 1/125 RDP-2 自然光

以前はこういったマンタの捕食はなかったようです。僕らがこのジャーマンチャネルでマンタの捕食シーンを見るようになったのは`99年か`98年後半ころからだったように記憶しています。それ以前はこういった捕食行動はこのポイントでは見られていなかったように思います。丁度、`98年の大規模なエルニーニョが起こった辺りからこの捕食行動が見られるようになったので、あの時の水温上昇と何か関係があるのかもしれません。

マンタの捕食の仕方は、頭鰭(とうき)と呼ばれる頭のところについている鰭を伸ばして行います。この頭鰭は普段は丸められているのですが、クリーニングされる時や捕食の時は「ビロンッ」って伸ばすのです。プランクトンが沢山入るように大きく口を開け、頭鰭もその口の大きさに合わせて広げます。より多くのプランクトンを効率よく摂餌するための方法なのですね。

そんな格好でプランクトンが一番押し上げられてくる1〜2時間の間、ずっと同じところをグルグルグルグル回ってくれるのです。大きな口を開けて複数のマンタが泳ぎ回るその光景はまさに壮観。それもずっとですよ。今までのダイビング観が変わること請け合いです。

この捕食シーンを見るためのコツと時期は、月齢と潮汐にとても重要なデータが隠されています。まず、大量の水を短時間に押し上げるエネルギーがないとこれだけ大量のプランクトンを一気に浅瀬に押し上げることは無理だとすると大潮回りに限定されます。次に潮汐がお昼から夕方6時くらいまで上潮になっていることが条件です。これは潮汐表を見ないと分かりませんが、DayDreamのHPにはパラオの潮汐表とマンタの狙い方をアップしてあります。ここで改めて書くのも大変なのでそちらを参考にしてください。


NIKONOS RS 13mm f4 1/60 RVP+1段増感 SB-105×2
1/2発光ワイドアダプター使用 フォトショップにてヒストグラム調整

この捕食シーンの上手な見方は、まずきちんと潮を読めるガイドと潜ることです。僕は水面にグルクンの群れが上がってくる頃が一つの目安と考えています。それからしばらく待つと、ミナミイスズミやテンジクイサキが捕食をはじめ、次にマダラタルミが捕食し始めます。このマダラタルミの捕食開始がマンタたちにとって捕食スタートの合図になっているようです。マダラタルミが捕食をはじめると、ほとんどの場合15分以内にマンタが捕食を始めます。このどこのタイミングでエントリーするか?それが僕らガイドの腕の見せ所となるわけです。

時にはミナミイスズミまでは捕食を始めてもマダラタルミは捕食をしないときがあります。きっと食べているプランクトンの種類が少し違うのかもしれません。グルクン、ミナミイスズミ、テンジクイサキは白いミジンコ(名前は知らない白ミジンコと勝手に呼んでいる)のようなプランクトンで捕食を始めるのですが、マダラタルミとマンタは、その白いプランクトンの後に流されてくる黒いプランクトン(黒ミジンコと呼ぶことにしよう)を好みにしているように思うのです。この「プランクトンの色とそれぞれのサカナの食べ分け説」はあくまでも僕の個人的な憶測ですけどね。

さて、マンタが出てきてからはダイバーは中層を泳ぎつづけなくてはなりません。プランクトンが集まる場所は水面近くの表層なので、その場所の近くを泳ぎながらキープする必要があるのです。その時、絶対のコツはマダラタルミの群れを崩さないこと。マンタはほとんどの場合このマダラタルミの群れの正面で捕食をします。ですからマダラタルミの群れを崩してしまうと、どこにマンタが表れてくるか目安にするものがなくなってしまうのです。僕は必ずマダラタルミの群れの斜め前をキープするようにしています。マンタがマダラタルミの群れの前を泳ぐなら、その場所にさえ僕らがいればマンタは目の前を必ず通って行ってくれるという寸法なのです。

ここで少し撮影のことを書きます。この捕食の時、目の前を通り過ぎるマンタをファインダーで捕らえられる時間はおよそ7〜8秒。それが何度も繰り返されるわけですが、同じ数、同じ編隊で来ることはまずあり得ません。ジャーマンチャネルという水路独特の地形から透明度もいつもちょっと濁り気味。マンタが近い時はストロボを使いますが、少しでも離れてしまったときにはストロボを切って自然光に切り替えた方がマリンスノーの映り込みを押さえられます。でもそれを短時間の間にワンタッチでしなくてはなりません。僕はニコンの水中脱着できるシンクロコードを使っています。これはコードの途中にストロボの発光ON/OFFをコントロールできるスイッチが付いています。このスイッチを左側アームの根元に付けています。これだと右手はシャッターから離すことなく左手でストロボの発光のON/OFFを切り替えられるんです。短時間で何カットも撮らなければならない状況で、いちいち左右のストロボまで手を伸ばしていたらその間にマンタは通りすぎてしまいます。何度もそういう悔しい経験をして現在のスイッチ式に替えました。これ便利です。


おもちゃのデジカメ フルオート(笑)

さてさて、今回はちょっとガイドとしての丸秘ネタを書きすぎてしまいました。(笑)

このマンタの捕食は来年4月くらいまではコンスタントに見られるでしょう。その後は天気次第だと思います。基本的に水面が荒れると出現率が落ちるような気がします。ジャーマンチャネルにとって苦手な南西向きの風が吹き出す頃、自然にこのマンタの捕食ダンスも見ることが少なくなっていくのです。

しかし、まだシーズンは始まったばかり。これから半年以上、来年5月までとして計算して、月に2回、3日ずつチャンスがあるとすると約36日も狙える可能性があるわけです。これからのシーズンあと36日もマンタがグルグル目の前を回るかもしれないんですよ。想像してみてください。凄いでしょう?とにかく騙されたと思って見てください。絶対ハマりますよ。


NIKONOS V f8 1/125 RHP 自然光

秋野
秋野 大

1970年10月22日生まれ
伊豆大島出身

カメラ好きで写真を撮るのはもっと好き。でもその写真を整理するのは大キライ。「データ」が大好物でいろんなコトをすぐに分析したがる「分析フェチ」。ブダイ以外の魚はだいたいイケルが、とりわけ3cm以下の魚には激しい興奮を示し、外洋性一発系の魚に果てしないロマンを感じるらしい。日本酒より焼酎。肉より魚。果物は嫌い。苦手なのは甘い物。

ミクロネシア・パラオ

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