ガイドのつぶやき - 沖縄・久米島からThe Diving Junky Magazine

2015年8月11日

南風が少し緩んだこの日の3本目。僕はポイントチョイスを悩んでいた。

はての浜のリーフを挟んだ北側のドロップオフのポイントへ向かえば、間違いなく海況は良い。しかし、数日前までの台風の影響で透明度が芳しくなかった。

クルーザータイプの船、You-Goの2階デッキに登ると、南側のリーフに当たる波の状態が良く見える。その向こう側には、大海原にそびえ立つ大岩がこちらを睨んでいた。

「・・・トンバラ、か。」

行ける。しかし、風が緩んだとはいえ、まだ少し波はあるだろうし、船酔いさせてしまいそうなゲストも見受けられる。正直な所、僕はあまり乗り気ではなかった。

「剛志さん、次どうします?」

我がボス川本剛志は、2階操舵室内から海を眺め少しの間を置いてから言う。

「ん・・・、トンバラにしよか。」

幾度となく、この言葉に背中を押されてきた事だろうか。迷いは吹っ切れた。行こう、トンバラへ。

エントリーチームは4班。総勢、約20名。ガイドは川本、田中、吉田、堤。

青い。透明度は良い。船の位置はトンバラ岩の北側。やや強めの東からの流れ。悪くはない。

潜降し、潮に逆らいながら少し進んだ所で、ギンガメアジの群れを遠目に確認した後、潮の頭へと向かう。潮に乗りながら、ギンガメアジの群れの先頭へアプローチすることに決め、しばらく進んだところで、流れに乗りながら、岩肌沿いに進路を折り返した。

そろそろ、目的の群れに到着するかという時だった。進路の先に現れたのは・・・

ジンベエザメ

「・・・ジンベエザメだ!!!」

大きな体をくねらせ、ゆっくりとこちらに向かってくる。

激しくベルを鳴らす。近くにいた吉田チームも異常な程のベルの音に気付いたようだ。心音と金属音が混ざり合って、興奮をあおるBGMとなり体中に響く。

ジンベエザメ

ゆっくりと、ゆっくりと、大きな歩幅で歩く巨人のように僕たちの間を進むその姿に圧倒され、僕は海の広さ、大きさを噛みしめていた。

ジンベエザメ

独特のフォルム、模様、体格は威厳さえも漂わせている。

しかしながら、至近距離でその小さくつぶらな瞳に見つめられると、抱きついてしまいたくなるほど、愛くるしい。

雌雄の識別方法は分からないが、穏やかで柔らかで、包み込まれるようなその瞳と仕草に、何となく女性らしさを感じた。

ひとしきり、この出会いを堪能した後、僕の頭の中は、他の2チームの事でいっぱいになった。

堤チームは潮流の遙か下手にいる。川本チームはその逆の上手だ。

潮流に向かって進むジンベエザメに並走しながら、ベルを鳴らし続ける。

潮の上手から流れに乗って戻ってくる事を考えると、先に合流できる可能性が高いのは川本チーム。

「気付いてくれ!気付いてくれ!」

祈るような気持ちで、力いっぱいベルを鳴らす。並走を続ける。川本チームの姿は見えない。並走していた時間は正確に言うと恐らく、1分半程度の時間だったろうと思う。しかしそれは、永遠にも思えるほどの長い時間だった。

自分のチームのゲストとの距離が開いてきた。

「・・・これ以上はやめよう。」

ジンベエザメ

僕の思いなど、当然知る由もない彼女は、悠々と泳ぎ去って行った。

「他のチームの所にも寄っていってくれよ。お願い。」

泳ぐのをやめ、後姿を見送った後、目を閉じ願いを込めた。

興奮状態で、尚且つ潮流に向かってしばらく泳いだことで、沢山の空気を消費したという事もあり、そのまま船へと向かう事にしたのだが、その間も他のチームの事が気が気ではなかった。心の中では「頼む!頼む!頼む!」と呪文のように繰り返していた。

しばらくの静寂。気持ちは落ち着かない。ともすればガイドもままならないくらいだったかもしれない。

しかし、そんな気持ちを吹き飛ばす激しいベルの音が遠くから聞こえてきた。

「ツヨシさんだ!よかった出会えた!」

僕はうなだれ気味だった頭を上げ、その方向に目をやる。見えるのは壁になったグルクンの群れ。鳴り止まないベルを聞きながら、流れる青い流星のような群れを眺め、安堵した。

堤チームは、この時点ですでに安全停止を開始する手前だった。残念な気持ちは残ったが、それもまた海と割り切るより他、方法が見当たらなかった。アンカーを外し、エギジットの準備に入ることにした。

相当じっくりとその出会いを楽しんでいるのか、相変わらずベルの音は続いている。

「いや・・・待てよ。これ、まさか!?」

その音は、船の下にいる僕たちにどんどんと近付いてきている!

ジンベエザメとダイバー

手を繋いで散歩でもするかのように、彼女と川本は現れた。安全停止中だった、堤チームの方にも会いに来てくれた。

「良かった!!良かった!!!」

この瞬間、やっと心からこの出会いを喜ぶことができた。

ジンベエザメとダイバー

その姿が遠くなり、ふと思いを巡らせる。

霊的なものに対して、あまり興味のない僕も、お盆の時期のこの大きなサプライズには流石に感じるものがあった。

きっと多分、そういう事なんだろう、と思う。こじつけだろうがなんだろうが、素直にそう感じた。

だからぼくは、最後に「お帰りなさい。」と呟き、彼女を見送った。

そして、いま改めてお礼を伝えたい。

「素敵な時間をありがとうございました。」

次はどんなサプライズなのだろうか。きっとまた、みんなが笑顔になれるプレゼントを用意してくれるに違いない。

楽しみにしてますよー!!

" 2015年8月11日 " へのコメント

  1. 藤原郁志: 2015年10月15日 8:09 PM

    伸さん、抜けている海でのジンベイザメは最高ですね。この場にいれたことを幸せに思います。徐々に近づいて来るジンベイザメを見ながら感動していました。全チームが見れて本当に良かったです。

田中
田中 伸(たなか・しん)

1982年5月20生まれ
島根県西部の山奥出身

山河に囲まれた環境に生まれ自然への好奇心は幼少期に確立されたものと思われる。学生時代に出会った沖縄の海に魅了され勢いでダイビングの世界へ飛び込む。都会から海へと通う生活を続けていたがガイドの目線でもっと海を見つめたいという好奇心から勢いで久米島へ。沖縄の太陽光と、「すべてはこの一本の為に」の精神を吸収しながら、日々精進で御座います!!

沖縄・久米島
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